上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0二人の男のプライドと逃亡者の真実の行動に胸を打たれる隠れた傑作
2019年7月31日に日本でレビュー済み
ハリソン・フォード主演作では彼の魅力が最も詰まった隠れた傑作で、余り他にはないスリリングなストーリー展開と二人の男の信念の衝突にシビれる後味爽快な大好きな作品だ。
前年1992年公開、スティーブン・セガール主演の「沈黙の戦艦」で癖のある悪役を好演したトミー・リー・ジョーンズと監督のアンドリュー・デーヴィスの名コンビが再び組んで、60年代米国人気TVドラマを下敷きに映画にリメイクしたのが本作「逃亡者」だ。
元々が実際の医師冤罪事件をモチーフしたストーリーで、一見すると奇抜な展開だが、とても合理的な脚本なのでストレスを感じない。
逃げる主演のハリソン・フォードは脂の乗った演技で、冤罪に陥れられたエリート医師キンブルの絶望と焦り、逃亡者の身で有りながら真犯人を単独で探索する知性と機転、真犯人を知った際の怒りを見事に演じきった。一方の追う側の連邦捜査官補を演じたトミー・リー・ジョーンズも期待通りの知的で強面の敏腕ぶりを披露し、本作でのアカデミー助演男優賞は納得。
本作はTVドラマよりもジェラード捜査官が人間的な設定で、キンブルをマジで追いつつも冤罪の可能性に気付いて共に真相に迫る。この逃亡者と追跡者の関係が徐々に奇妙な連帯に変わっていくカタルシスが本作の真骨頂だ。
直接対話していないのに、互いに合理的思考をフル回転させて、小さな違和感から疑念の確信に至る二人の男の知力と胆力は、かなり勉強になる。
現代社会で職責や立場を超えた行動を取るのは思いのほか難しい。奇跡を起こすのは強き信念と行動、そして本当の仲間は見捨てないし、いつか誰かが真実に気付いてくれる、と言うシンプルだが本質的な主張は太く胸に刺さる。多くの人々に勇気を与えてくれるのだ。
そして本作が忘れ難いのは、逃亡中のキンブル医師の行動規範の高さだ。たとえ不遇にあっても医師としての高潔な倫理を忘れない行動の一つ一つが眩しい。それが最後の大逆転に繋がる「情けは人の為ならず」な脚本が、本作を傑作とする真の理由かも知れない。
ジェラード保安官の部下達やキンブル妻役のセーラ・ウォード、女医のジュリアン・ムーアも端役なのにそれぞれ印象的な演技でリアルさを高めている。
Blu-rayのリマスター画質は夜間シーンも明るくて素晴らしく、特典映像も制作裏話が充実で古いDVDから買い換えて正解。吹替えも見事で、特に今の何かを変えたい人には観て損はない傑作です。