上位の肯定的レビュー
5つ星のうち4.0E・ノートンの怪演が光る法廷サスペンスの秀作
2019年5月30日に日本でレビュー済み
96年公開の法廷サスペンスで、いわゆる普通の“法廷ドラマ”とは一線を画する異色なストーリーが特徴的。
映画の序盤、現実の米国弁護士が下調べはそこそこに、此ほど安易に弁護を引き受けるのか少し疑問が残ったが、殺人事件の「真相」の筋書きを二転三転させ、大きな謎解きを後半に残す為の脚本都合だろう。それぞれの仮説への関係人物が多くなった分、一人ひとりの掘り下げは浅くなるし、整合性に甘さが残った事は本シナリオの弱点だが、本作の「核心」はそこでは無いので流せるレベルだ。
本作は裁判における精神鑑定に係わるテーマ性と、エドワード・ノートンの怪演に尽きる。彼の繊細なインテリ風から激昂に転じる瞬間の演技にはゾクッと来る。その後の「ファイト・クラブ」にも繋がる全身を使っての振幅の大きな素晴らしい演技は、アカデミー賞で本作から唯一助演男優賞にノミネートされている。
主演の敏腕弁護士のリチャード・ギアと助演の元カノ辣腕検事ローラ・リニーの法廷対決はスピーディでテンポ良く、中途半端な馴れ合いや湿っぽさを排除したドライなやり取りが良かった。
リチャードの演技は深過ぎず適度な傲慢さを軽薄に出していたし、「ラブ・アクチュアリー」では内気で健気なOL役を演じていたローラの毅然とした演技は意外だった。判事のアレフレ・ウッダードの公判コントロールも歯切れ良く、最後まで緊張感が途切れないバランス良好な脚本だった。
最後に「何が正常で何が異常なのか」境界線が曖昧になりつつある現代、精神障害が疑われる被告人裁判における精神鑑定の客観性確保や、陪審員判断の限界を真剣に考えねば成らないだろう。国民として新たなリスクを知り、変化に応じた法令対応等を考える切っ掛けとするのに実に適当な映画だと思います。
Blu-rayはレストアされていないものの満足な画質。日本語吹替えはリチャードの安原義人の声が少し軽く、「愛と青春の旅立ち」の津嘉山正種の甘い声が懐かしい。