上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0希望への船出
2022年4月29日に日本でレビュー済み
まず初めに本アルバム「our hope」をCDで聴くメリットを挙げますと、サブスク等よりも解像度の高い深みのある音を味わう事が出来ます。
私はこのアルバムが発売されてから一週間、主に外出時にはサブスクで、家でじっくり聴く時はハイレゾ対応の再生機器でと、両方聴き分けてきましたが、勿論サブスクでも充分素晴らしい音質ですが、CDで聴くとさらにボーカルやコーラスの透明感や楽器の音がより深くまろやかに聴こえ、スタジオ内の空気の振動まで感じられ、羊文学が目の前で演奏しているような立体感のあるバンドサウンドが堪能できます。
もし、サブスク等で聴いてこのアルバムを気に入って頂いた人で、羊文学のサウンドをより深く聴きたい人CDで聴かれる事をお勧めします。羊文学が大事にしている余白の音楽を体感できます。2021年のライブ映像が収録されているブルーレイディスクは映像も音も素晴らしくコスパはとても良いと思います。
今回のアルバムの楽曲はベースの河西ゆりかさんもレコーディングでは何度も練習を重ねたと仰っており、音がしっかりと整理されていて全体的に聴きやすいサウンドになっていて何回聴いても飽きないアルバムです。
今回のレコーディングでは、楽器のチューニングやセッティングをする専門の職人であるテックの人をスタジオに招き録音のサポートをしてくれた事や、楽器も普段使っている楽器以外にもレコーディングに適した楽器やマイクを使用した事や、ミックスをより丁寧に行った事で、以前よりも聴きやすいサウンド作りに成功しています。
本作は「光るとき」「ワンダー」「マヨイガ」「ラッキー」等タイアップ曲も多く収録されています。タイアップ曲というのは一般的にそのバンドとは違う特色のポップな曲になってしまう傾向になりがちですが、本作のタイアップ曲は羊文学らしさをもった素晴らしい曲ばかりで、他に収録されている楽曲と混じっても統一感がある、作家性と商業性が両立されているアルバムになっています。
本作の楽曲は都会での生活を基に、大都会で感じる不安や寂しさやコンプレックスや人間関係の悩みが赤裸々に歌われています。羊文学の歌は分かりやすいポジティブ全開のポップソングはありません。タイアップ曲もメロディーはポップでもどこか迷いや哀しさがあるグラデーションがある歌ばかりです。でもそれがポジティブ全開の歌よりも聴く人の心に寄り添ってくれるような優しさを感じさせてくれます。
聴く人によってこのアルバムのこの曲が好きだと感じる曲はそれぞれの人達がもっていると思います。これからアルバムを聴き込む人達にはそれぞれが感じる大事な曲を作り上げてほしいです。
一般的には羊文学というとフロントの塩塚モエカさんのボーカルやギターが注目されますが、リズム隊の二人である、ベーシストの河西ゆりかさんの新鮮な果実をもぎ取るように、なめらかで美しく粒だったベースの音や、ドラマーのフクダヒロアさんの正確なピッチを刻みながら、それが機械的にならずにノリの良いリズムやグルーヴで叩くドラムは羊文学のサウンドを支える大事な存在です。普段ベースやドラムの音を注目して聴いていない方は一度リズム隊の二人の演奏に注目して頂くと羊文学のサウンドをもっと深く楽しめると思います。
特にドラムのフクダさんの演奏は以前よりも力みがなく、一音一音確信をもって叩いている印象があります。インタビューでもドラムに関してはしっかりとしたコメントをされており、塩塚さんや河西さんに比べると寡黙なイメージがありますが、ドラムでは雄弁に語っているように叩いていて、それがこのアルバムのノリが良くて聴きやすい要因の一つだと思います。
2020年代に入り、世界的な流れで若い世代を中心にオルタナティブロックの人気が再燃しつつあります。その潮流の中で羊文学が日本のみならず、海外でもさらに注目を受けるのか今後が楽しみです。
ボーカルの塩塚モエカさんは透明感のある歌声や歌詞は、日本語の響きを美しく表現できる国内でも屈指のミュージシャンの一人だと思います。それをより魅力的にできるのは河西さんとフクダさんのリズム隊の力だと思います。本アルバムは現時点では羊文学の3人が作り上げたバンドサウンドの集大成だと思います。
これから羊文学がどのような航海を続けていくのか楽しみです。「OOPARTS」のようなシンセを作った曲が増えていくのか、外部から人を招いてこれまでと違う新しいサウンドを作り上げるのか興味は尽きませんが、これからも羊文学の3人で新しい新天地に向かっていってほしいです。