上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0地平線の無い世界
2024年6月9日に日本でレビュー済み
「無職転生」の架空世界の描写が凄まじい。
単に美しく広大であるだけではなく、舞台である「六面世界」の構造すら暗黙裡に示しているのだ。
此のレビューは、「無職転生」世界其の物に付いて、アニメから受けた感想を綴ってみた。
私は原作書籍既読で、Web小説版(なろう版)は飛ばし読みに近いが、「無職」と関連した他の「六面世界」の物語も読んでいる。
そんな私が、アニメⅠ期を二度見三度見してやっと気づいた事が有る。
此れはネタバレとは言えないだろう、原作書籍を読み終えていても、アニメを迂闊な見方をしていたら気付かない事なのだから。
まぁ私が鈍いだけかも知れないが。
■「天動説の世界」
「無職転生」のアニメで、主人公達の背後に描かれた広大な世界のパノラマ、素晴らしく広い其の光景を見た時、其処に「地平線」が描かれていない事に気付かないだろうか。
此れは何か?
「無職転生」の世界は「天動説」を具現化した世界なのだ。
「ラノア魔法大学」の中に「天動説」を様式化した「天球儀」が飾られているが、「地動説」ではなく「天動説」が此の世界の真実なのだ。
詰まり「無職」世界の大地は平らなのである。
地球は丸いからこそ地平線や水平線が有る。
人間の視点だと、地平線迄の距離は大体4.5㎞程なのだそうだ。
しかし「無職」世界の大地は更に遠方の土地が視界を覆い、遥か彼方の山脈で視界が遮られる。
海も対岸が描かれる事は有っても、遥か彼方が霞んで見えない場合は有っても、水平線は描かれない。
----と思ったが、流石に水平線を描かずに海と空の境目を表現する事は難しかったのか、水平線ポイものは描かれている。
2クール目の初期に少しばかり描写ミスが散見できる様だが、途轍もない広さを見渡す事が出来る世界、其れが「無職転生」の世界なのだ。
世界観が平らな世界は、大地が球体であるとの認識が一般化した現実でも創作されている。
例えば、有名な「指輪物語(映画タイトル「ロード・オブ・ザ・リング」)」の世界「中つ国(ミドルアース)」は、創世記から「ヌメノール(アタランテ)」大陸の水没迄は平らだった。
以後、神々の土地「ヴァリノール」は生きた人間の渡来を拒否し、「中つ国」の地を丸く閉じて、エルフのみに航路を開いた。
2024年現在では第1期が配信されただけに成っている「力の指輪」で今後描かれるだろう変化であり、詰まり「力の指輪」の世界は現状では平らなのである。
「無職転生」はそんな平らな世界を、「力の指輪」よりも解り易く描いているのだ。
一番解り易いシーンは、「フィットア領転移事件」の時、遥かに離れた「シーローン王国」からロキシーが異変の光を目撃している所である。
大陸の西側の大事件が、東側の「シーローン王国」から望めると言う事は、ロサンゼルスの核爆発がニューヨークから望めると言う事に近い。
長崎・広島の核爆発が、果たして大阪やまして東京から目視できたか?
下はネットの記事の引用だ。
<広島の原爆爆発~6月3日の朝日新聞より:大阪は無理ですが、岩国など山口県東部や島根県西南部からは見えたようだ。>
「無職転生」小説にはキシリカ・キシリス登場時に魔眼「千里眼」の説明が有る。
後に劇中にも登場するが、此れは視界を遮る物が無ければ遥か彼方の物迄見えると言う、超高性能望遠鏡の様な魔眼だ。
地球上だと望遠鏡で地球の裏側を見る事は叶わないが、「無職転生」世界では、空中城塞ケイオスブレイカーなどを訪れて視界を確保できれば、世界の全てを眺める事すら可能なのだ。
此の様なとんでもない事実を劇中で特に訴える事もせず、「無職転生」の背景美術は気付く人が気付けば良いとのスタンスで描かれているのである。
ん?
書籍17巻に、アスラ王国首都アルスの街並が地平線の彼方まで続いている表記が有る……作者のミスかルーデウスの認識ミスだな。
首都の端が微妙に盛り下がって先が霞んで見えなくなれば、そんな誤認識も有るだろう。
余分な話:「聖戦士ダンバイン」の「海と陸の狭間の世界バイストンウェル」も地平線が無い。
尤もこちらは世界の構造的に謎空間だが。
縦に潰れた砂時計が回転して重力を作る形の「LAST EXILE」の「人工惑星プレステール」も地平線は無いが、こちらは多分、砂漠の果てに宇宙とを隔てる壁が有る。
■無職世界の多様性
「中つ国」は架空の古代ヨーロッパだ、物語で描かれた世界も同様の広がりを持つ。
南方国人や象の始祖「オリファント」等の描写に異国性は見られるが、基本的には古代ヨーロッパである。
現実の過去では、本来未だいない筈の馬がいる事に成ってはいるが。
「無職転生」の世界は「中つ国」以上の多様性と広がりを持つ。
此の一部は、各地方の言語迄作ったアニメスタッフの力も大きい。
夕刻の魔石の光が美しい魔大陸のリカリスの街の様な明らかに架空の景色も有るが、乾燥した北米中央部やアンデスの高地を思わせる魔大陸。超巨大な樹木が林立する「中つ国」のエルフの王国を思わせるも、雨期に大地が水没しアマゾン川流域の環境や風俗を感じさせるミリス大陸北部の森林地帯。
イタリア、特に水の都ヴェニスとドイツやフランスの古都を合成したかの様なミリス神聖国。
東南アジアのタイやビルマ、インドの風物を感じさせ、棚田や田園地帯が広がり、中国杭州の様な雰囲気も有る中央大陸南部の王龍王国やシーローン王国。
チベットかヒマラヤを思わせる赤龍山脈を越える道。
2期に成るが、北欧を思わせる北方の国々やベガリット大陸の砂漠地帯。
「無職転生」の各地方には現実の世界を参考にしたと思しき風情が有り、第一期のルーデウス等デッドエンドのアスラ王国への帰還の旅路は、あの世界の半分以上を踏破する旅である。
「指輪物語」はほぼ1年の旅路だったが、此方は3年も掛かっているし、そんな時間の流れを十分に感じさせる旅である。
「西遊記」の天竺への旅よりも過酷かも知れない。
良く有る西洋風のファンタジーの世界を遥かに超えて、「無職転生」の描く世界は圧倒的だ。
■世界に刻まれた歴史
「無職転生」に近いジャンル、異世界ファンタジーアニメ「葬送のフリーレン」は、其の世界の歴史の「魔王が倒された後の世界」を描いている。
此れは微妙な表現だ。
魔王は倒された、しかし次の魔王が現れないと言う保証は無いし、世界の滅亡が訪れるかもしれない。
少なくとも、2024年の1期のアニメで描かれているのは。「此れで脅威は無くなった」世界ではなく、「未だ々だ問題は残っている」世界だ。
先に挙げた「指輪物語」の世界は、冥王サウロンを滅ぼして終わるが、実は初代冥王モルゴスを神々が打倒して後の世界(「シルマリルの物語」)の物語だ。
「ホビットの冒険」は「シルマリルの物語」と「指輪物語」に挟まる、「指輪物語」の前日譚なのだ。
「無職転生」世界の歴史は、太古の神々の時代が有り、「六面世界」の内の五面が滅んだ戦いが有り、残った「人の世界」で7000年前~6000年前に第一次人魔大戦、5000年前~4200年前に第二次人魔大戦が起こり、巨大陸は中央大陸と魔大陸に別れリングス海ができ、龍神ラプラスは魔神ラプラスと技神ラプラスに分かたれる。
500年前~400年前にラプラス戦役が起こり……
80年後にラプラスの復活と其れに続くであろうヒトガミとの戦いに備えて準備をする、此の戦いと戦いの狭間が「無職転生」の主人公ルーデウスの活躍の時代だ。
此の「無職転生」の物語は、「ホビットの冒険」に似ている。
「ホビット」も「無職転生」も、主人公は大戦乱で活躍する英雄ではない。
次の時代に備えて最善を尽くそうとする一人の人間(?)でしかない訳で……将来に向けた仕事を真面目に務め、成果が自分の所に帰って完結するとは成らない辺り、「無職転生」の人生の描き方は深い。
世界の地理が前の時代の影響を残している辺りも、「無職転生」は「指輪物語」に近い。
巨大陸が中央大陸と魔大陸ミリス大陸等に別れリングス海ができたの下りは「無職転生」の世界地図を見ると一目瞭然で、其の原因も物語に関わってくる。
尤も「無職」は異世界だが「指輪」は創作神話、架空の古代ヨーロッパと言う違いは有るんだけど。
※脱線1:「指輪物語」の「中つ国」は、「シャイア」が後のイギリスで、此の時ドーバー海峡は存在していないが、ひょっとしたら「裂け谷(リヴェンディル)」の土地が此の世から消えたか隠されて海峡が出来たって事かも知れない。
カラズラスはアルプス山脈で……面白いのはモルドール周辺だ。
徐々に広がっていると言う「死者の沼地」は後の世もどんどん広がり、「一つの指輪」を吞み込んだ火山「オロドルイン」や大要塞「バラド・デュア」の基部、そして周辺のモルドールの国土を呑み込んで現在の「黒海」と成った?
※脱線2:「一つの指輪」は「オロドルイン」の火を利用して作られた訳で……
「中つ国」創世記、世界を照らす「ヴァラールの大灯火」が初代冥王モルゴスに破壊され、暗黒時代の後、星々が空に輝き、そして「金の樹」「銀の樹」が世界を照らす。
2つの樹もモルゴスと巨大な蜘蛛ウンゴリアントに倒されるが、実が残り、其処から太陽と月が作られ現代に至る。
(「銀の樹」の子孫の「白の樹」が、ゴンドールの紋章に成っている。)
さてさて「オロドルイン」は「ヴァラールの大灯火」の燃える先端が大地に激突して出来た様だ。
「中つ国」の地図から推測すると、「大灯火」の激突で巨大なクレーターが出来、其れがモルドールを囲む山脈と成る。
「一つの指輪」は神々の最も古き力の1つ「ヴァラールの大灯火」の力を利用して作りだされた為、あれ程の脅威と成ったと思われる。
「無職」世界の歴史もなかなかに複雑で、多分復活するラプラスも書籍中の描写や伏線を探るに付け、単純に斃して済む敵とは成らないんだろうなと予測する。
----冗談で「転生したらラプラスだった。」なんてルーデウスが更に転生する超蛇足ネタを夢想したり、「六面世界」の裏ヒロインはエリナリーゼさんなのかもと思ったり。
「六面世界」はアニメ完結後、時間が有れば完結させたいそうだが、頑張って執筆して欲しい物だ。
■「無職転生」世界の時間の流れ
最後に一寸蛇足ではあるが……「無職転生」はSF的な時間テーマすら含まれているのだが、此れに関しての感想は此処では控えたい。
但、劇中で老衰する「人族」は70代が多い。
現代人の感覚からすると、少し早いかなと言う印象で、治癒魔術が存在するので、平均寿命は低くとも、老衰寿命はもう少し長くても良いのでは、何て事を思ってしまったのだが……
ふと、「無職」世界の1日の長さ、1年の長さは、我々の世界と同じなのだろうかと思ったのだ。
例えば1日が27時間の世界ならば、75年は約84年間に相当する。
1日が24時間で変わらなかったとしても、1年が400日ならば約82年間だ。
あの世界に正確な時計は無いし、暦が紹介された事も無い。
若し時計が出てきても、其の時計が1日24時間制であったとしても、その1時間が我々の世界の1時間と等しいとは限らない。
私の考え過ぎかも知れないが、時間の長さが私達の世界とは微妙にずれている可能性も有るのではと思うのです。