上位の批判的レビュー
5つ星のうち3.0稀有なライトノベル。人間関係をちゃんと描いている
2019年11月7日に日本でレビュー済み
『最高のオープニングとは、純文学だろうが娯楽小説だろうが関係なく、300ページの物語がはらむ対立のすべてを20ワード以下の一文に盛りこんだものだ。』
これは、【ベストセラーコード「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム】という本にある言葉だ。最高の小説について述べている場面で、169ページにある。
……残念ながら、いま私がレビューしようとしている【俺を好きなのはお前だけかよ】という作品は、そういうレベルのものではない。何かしらの文芸ジャンルで最高峰とか、そういう作品ではないけど、あなたの楽しみになる可能性はある。
もし、原作を試し読みされるのであれば、BOOK☆WALKERでも何でもいいので読み始めてみるといい。私の言っていることがわかると思う。
冒頭は退屈だ。地味な状況の描写からスタートする。菫子がいる図書室に入るところから始まって、彼女と他愛のない話が終わるまで大体10ページほど。過去の私は、ここで読むのをやめようとした。あの時、読むのをやめなかった自分を褒めてやりたい。おそらく、電撃大賞の下読みや選考委員も同じ気持ちだったはずだ――
『脚本の基礎を学ぶ時間はそろそろ終わりにしよう。今から脚本執筆術で本当に大事なことに焦点を当てよう。本当に大事なこと、それは脚本を読む人に感情的な体験を提供するということなのだ。読んだ人の心がいろいろと感じたから、それを良く書けた脚本と呼ぶのだ。』
これは、【「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方】という本にある言葉だ。最高のシナリオについて述べている場面で、14ページにある。
【俺を好きなのはお前だけかよ】という作品は、この条件には当てはまる。文学的名作ではないけど、私たちの暇な時間を潰す程度のことはできる。
一般的なライトノベルとの違いは、『人間の描き方』にある。おそらく、これが選考委員のハートに響いたところだ。
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話は逸れる。
ラノベに限らず、なろう系などと呼ばれて人々から卑下される作品の特徴として、①人物構築の単純さ、②人間関係の稚拙さがある。
前者①について
妹、人造少女、ツインテール、メイド、ツンデレ、エルフ、お嬢様、腐女子、ショタコン……その他数え切れないほどのキャラクター類型があるが、ほかの作品に出てくるような振る舞いをするばかりで、まるで深みがない。
現実の人間に目を移そう。例えば、自己中心的と呼ばれる人がいたとする。でも、常に自己中な振る舞いで他人に迷惑をかけるばかりでなく、人から尊敬される行動も取っているはずだ。それは、その人が自己中であるがゆえに、そうした行動を取ることができる。我を通したがるからこそ、できる親切だってある。
つまらない小説にはそれがない。嫌味な奴はどこまでも嫌味で、熱血な奴はどこまでも熱血で、いじられキャラはどこまでもいじられ、クールなキャラはとにかくクールで、頭が鈍いキャラはいつまで経っても鈍いままだ。人間は矛盾しているものなのに、それを描くことができていない。
後者②について
作者には人付き合いの経験がないのだろうか、というほどに哀れな小説や漫画に出会うことがある。
友達だろうとライバルだろうと恋人だろうと、仲良くなったらなったで、そのまま順風満帆な関係がラストまで続く。政治的経済的な資源配分の問題や、致命的な意見の対立による争いが一切ない。まるで、友達や恋人が主人公と一心同体に、あるいは奴隷になったかのように付き従う。
子ども相手なら問題ないが、ある程度、成熟した人がそういう作品を読むと呆れるだろう。現実味がないからだ。
小学生でも、自分の願いが何でも叶うだなんて思わないだろう。他人が自分の思い通りに動いてくれる夢の世界――それくらいに馬鹿げたことだ。
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話が逸れて申し訳ない。
この、私がレビューをしている商業作品は、上記2つの悪い条件を満たすものではない。
メインキャラクターについては、「ああ、これはこういう人なんだな」と画面の外から感じられるレベルに仕上がっている。彼らは何度もケンカをして、相手が信用できない状態になってさえも、糸口を探してまた元通りになろうとする。
娯楽作品として読めるレベルに仕上がっている。これはライトノベルだ。でも、外見がラノベなだけで、文体を変えれば一般文芸でも通用したのではないか? とも思う。
最後に。アニメ的に優れている点として作画を挙げたい。
一般に、売上げを見込める作品には、多くの予算、多くの人員、多くの時間が費やされる。これは、そっち側だと考えていい。
アニメというのは、実際に観てみないとわからない。騙されたと思って、とりあえず3話まで見てみよう。心の琴線に響いたなら幸いです。