上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0過渡期・・・なんだと思う
2019年11月17日に日本でレビュー済み
一度聴いて押入れにブチ込み、しばらく再聴する気になれなかった。きのこ帝国が好きで、どうしても過去の作品を基準に期待・想像するので、最初はそういう反応にならざるを得ない。また本作は、ポップスとしての完成度はそれなりに高いけど、テイストでは様々に異なる過去の諸作と比べても、アルバムの統一感は一番低い気がする。客観的評価はたぶん星4つですが、今後への期待を込めて5つにしました。
きのこ帝国の前作『タイム・ラプス』収録の「傘」について、佐藤氏は中島みゆきへのオマージュだと発言していましたが、今回のアルバムにもその路線を感じさせる曲がいくつかあります。試行錯誤中なんだと思うけど、大きな勘違いだとも思う。中島みゆきの時代の日本では、左翼思想(とその挫折)というイデオロギーを多くの人が共有し、流行歌も社会全体で共有されていた。その前提のうえでのみ中島の歌とメッセージは存在していた。そういう社会的前提は今の日本にはもう存在しない。
「夜が明けたら」「退屈しのぎ」を初めて聴いたとき個人的に思ったのは、「ああ、もう中島みゆきは用なしになったんだ」ということだった。属する社会的パラダイムが違うので単純な比較はできないけど、以前より個々人の孤独が深まり、イデオロギーや歌を共有することができない今の時代だからこその人間の姿を初期きのこ帝国は見事に歌っていて、その深さにおいて、中島みゆきはもはや幼児に感じられた。なので、佐藤氏が今になって中島へのオマージュを言い出すとは何とも皮肉だというのが正直な感想。
また今回のアルバムでは、佐藤氏の恋に恋するお転婆娘ぶりがかなり前面に出ていて、これもかつてのショートカットのストイックな姿とは真逆なので、かつてのファンにとってハードルがさらに上がる。人間ここまで変われるのか、という点では興味深く、感動的ですらあり、ひょっとすると根本的には変わってないのかもしれませんが、現在の姿は少なくとも以前より楽しげなので、本人のためには良かったかなとは思います(←表面的コメント)。
本作は音楽的にも、オルタナ風味のポップス/歌謡曲、ジャズを採り入れた曲、テクノポップなど、試行錯誤している印象がある。中島みゆきの他、宇多田ヒカルや美空ひばりにも言及している佐藤氏なので、日本の歌謡曲の歴史を振り返って自分の方向性を思案中なのかもしれない。この際、日本の歌謡曲だけでなく、激動中の世界の最新音楽(アフリカ、中近東、インド亜大陸、東南アジア・・・)も一通り(できれば現地で)聴き、またAMMがなぜノイズ音楽を、アルバート・アイラーがなぜフリージャズを、シド・バレットがなぜサイケ・ロックを始めたのかといったあたりから根本的に考え直してほしい。そのうえで独自の世界を切り開いてほしい。佐藤氏の音楽の未来は、自分独自のものでしかあり得ないのだから。
しかし・・・きのこ帝国ロス否めません(泣)。あーちゃん、コンと活動再開する日も長い目で待ってます。