上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0懐かしく、そして新しい細野ワールドがここに
2019年3月6日に日本でレビュー済み
細野晴臣は、はっぴいえんど解散後、初のソロアルバム「HOSONO HOUSE」を、当時住んでいた狭山の米軍ハウスに録音機材を持ち込み、松任谷正隆(ピアノ他)、鈴木茂(ギター)、林立夫(ドラムス)、すなわち細野さんとキャラメル ママを結成するメンバー、そして駒沢裕城(スティールギター)を招いてレコーディングし、1973年5月にリリースしました。
その後、「トロピカル三部作」を経て、Yellow Magic Orchestra、SKETCH SHOWそして映画音楽など、時代の最先端を行く音楽活動を続けてきた細野さんが、サウンド面では心残りもあったという「HOSONO HOUSE」の全曲を、約46年の時を経て細野さん一人の歌と演奏により新たに録音し直し、「HOCHONO HOUSE」と名付け、我々に届けてくれました。
達人たちによる当時のバンドサウンドを、たった一人で再構築するのは、かなり大変だったようですが、そんな苦労は微塵も感じさせず、懐かしく、そして新しい細野ワールドがここに見事に展開されています。
曲目はオリジナル版と同じですが、曲順が全く逆になっているところが楽しい。また、歌詞の一部が、現在の細野さんの心境に合わせて変えられている曲もあります。
冒頭を飾る「相合傘」は、ソロとして発表する予定が、急遽はっぴいえんどのラストアルバム「HAPPY END(1973年)」の方にまわされ、オリジナルの「HOSONO HOUSE」ではラスト11曲目にデモテイクのそれもイントロだけがちょっとだけ登場していた曲。今回は歌も入っていますが、「Broken Radio Version」のサブタイトルが付いている通り、壊れかけたラジオからノイズと共に曲が流れてくるような趣向になっています。細野さんの遊び心が早くもここに・・。
2曲目「薔薇と野獣」は、オリジナル版ではキャラメル ママのダイナミックな演奏が印象的でした。こちらは細野さんが一人でコツコツと積み上げたバックトラックに淡々としたヴォーカルが重ねられており、ミディアムテンポのホンワカとした曲調からは、山のふもとに小さな家がポツンと佇むような情景が浮かんできます。
ミニマル風の打ち込みのリズムがテクノっぽさを感じさせる3曲目「恋は桃色」。オリジナル版は駒沢さんのスティールギターがカントリーフレイバーを漂わせていましたが、今回は、細野さんが高橋幸宏と結成したSKETCH SHOWを思わせるような仕上がりとなっています。
4曲目「住所不定無職低収入」は、当時の田舎暮らしから、すっかり都市生活者となった細野さんの「今」が反映されたような、細かなリズムで敷きつめられた曲。当時のデモ録音の一部が間奏部に使われているそうで、注意して聴くとノスタルジックな音が現れてきます。そして、「HAPPY END」録音の際に訪れたハリウッドのスタジオで細野さんが出会い、大きな刺激を受けたというVan Dyke Parksに通じるドリーミーなアメリカ音楽の世界も感じられます。
5曲目「福は内 鬼は外」は、複雑なリズムで構成された凝った作りの曲で、昔からの細野さんのリズムへのこだわりが健在であることに嬉しくなりました。「・・福は内、 ・・鬼も内」と歌詞が変えられている部分に、細野さんの現在の心境が伺えます。
6曲目「パーティー」では、細野さんのピアノ弾き語りによる1975年10月29日、目黒区民センターでのライブ音源がそのまま使われています。ラグタイム風の演奏とちょっとくすんだ音質に、40年以上もの歳月が滲んでいるようで、感慨深いものがあります。
7曲目「冬越え」は、元々のギター弾き語りスタイルで録音し直したそうで、かつて細野さんが歌い方にヒントを得たというJames Taylorの雰囲気が漂います。細野さんは、スキャットも交え楽しそうに歌っており、ライブでも披露して頂きたいと思います。
8曲目は、オリジナル版では、ほのぼのとしたムードで歌われていた「終りの季節」。今回は、軽快なテンポのインストゥルメンタルに生まれ変わりました。細野さんは、当時のアメリカ風の生活を思い出して演奏したのでしょうか?アコースティックギターが心地よく響き渡ります。
9曲目「CHOO CHOO ガタゴト」は、Tin Pan Alley「キャラメル ママ」や、久保田麻琴とのHarry & Mac「Road to Louisiana」にも収録されており、細野さんお気に入りの曲のようです。今回は「アメリカ編」となっている通り、ソウルっぽい曲調で、細野さんのイカしたベースラインに自然と身体が動き出します。
10曲目「僕は一寸」は、暑い盛りに録音したそうで、タイトルに「夏編」と付けられています。夕涼みしながら演奏しているようなリラックスムードと共に、深みと翳りが感じられました。
ラスト11曲目「ろっかばいまいべいびい」は、オリジナル版でも、細野さんが一人で演奏し、録音まで手掛けた曲です。今回は、時計の秒針の音のようなリズムをバックに、細野さんがしんみりとギターを奏で歌っています。目の前に細野さんがいるような臨場感がたまりません。
聴き手の頭の中には、「HOSONO HOUSE」とこの「HOCHONO HOUSE」が重なり合い、ひとつの輪となって、心地よい響きを発しながら回り続けるかもしれません。
全11曲、約36分。全曲の歌・演奏、そしてプロデュース、ミックスともに細野さん。録音は、2018年~2019年、Daisy Bell Studioにて。