上位の肯定的レビュー
5つ星のうち4.0主食でも副菜でも美味
2018年12月7日に日本でレビュー済み
うかうかしてる間に時間だけが過ぎてしまった。書きたい事がありすぎてなかなか纏まらなかった…
といっても私がtofubeatsを初めて知ったのは2015年、iTunesでBONNIE PINKの新しい曲を探してた時に、『衣替え』のリミックスから。
tofubeatsが何者なのか、一人なのか複数なのかすらかも知らなかった。
ただなんとなくイイな、というボンヤリした好き具合から始まって、そこから気まぐれに試聴&購入を繰り返すうち、今作の未発表音源欲しさにCD買うまでに大好きな音楽家の一人になってしまった。このアルバムも先行配信を含め、発売日にデジタルで買ったのに。
曲の『RUN』は発売当時、短かさを不審に思ったけど、アルバム通して聴いたらちゃんとハマっててびっくりした。
最後の曲からリピートで戻って来た時、つまりラストのふわふわした感じから現実に引き戻されるリセット役としても機能してるのに気づいた時、恥ずかしながら、初めてこの曲の本当の良さを体感した気がする。
それに歌詞。自分の現状に似ているからなのか(いや誰にだってこういう時期や瞬間があるはず)、仕事で行き詰まった時、このアルバムを再生すると始まる『RUN』が、イライラやムカムカ、正解の無さにどうしようもない状況を、一度手を離して客観的に見てみようかと、頭をクリアに、リセットしてくれるような感覚を味わう。
単品の時よりもアルバムとして聴いたら、一層強力な、頼もしい、それもかなりタフな先鋒の印象に変わり、また大好きになった。『RIVER』と対比して男性的な曲と感じる。
『RIVER』は最初、「イイけどなんかパッとしねーな」程度の認識だったのに、何回か聴いてるうち、ある晩ひとりで「ふたりの愛は〜」と口ずさんでいる自分に驚いた。いつの間にか水みたいに染み込んでたんだと気づいた。
「とぎれることないけど掴めない」
「いろんな愛を集めた色のようだ」
この歌詞のせいか、川の色は留まらない透明の七色で、底には宮沢賢治の「やまなし」を彷彿とさせるキラキラした破片が透けて見えるよう。昼夜の属性的にいうと夜だ。暗闇の中のプラネタリウム、その天の川を見てるような、それでいてシングル時のジャケットのせいか、真っ白な何もない空間から『心の破片』と共にゆっくり落ちてくる女性のイメージも湧いてくる。
どこか少し悲しいのに、このメロディのせいなのか、いつの間にか、ホッとする大好きな曲になっていた(最後ら辺のピアノの、我が幼少期のトラウマ『メトロポリタンミュージアム』を彷彿とさせる不穏な旋律も含めて)。
『ふめつのこころ』は個人的に、先立った家族が透明な姿で、自分をこっそり見守ってくれているように聴こえる。
しかもそれが、わくわくするリズム、思いやりに溢れていて、聴くと元気付けられると同時に楽しい気持ちになる。テープの巻き取り音にも聞こえる、ちょっとチャイナくさいメロディと音のつくりがまた、何度聴いても楽しくて飽きない。tofubeats本人の、歌詞見なくても聞き取れるはっきりした歌い方もすごくいい、ほんと正直がいい、あんまり空気読むくらいなら。
4曲目の『MOONLIGHT』は、これまでのアルバムを振り返れば似た曲あるかなーって気もするけれど、毎度ながら踊れそうな楽しさと、歌詞が特に好きだ。
「なんとなく感じてる不安を忘れたい」、でも「君なら大丈夫」と、聴く側をストレートに鼓舞してくれてる。小粒、だからこそ堅苦しくなくて親近感が湧くのか、不思議といつのまにか大好きになってる。
たまの贅沢のような高級料理じゃなく、幼なじみの駄菓子、ちょっとジャンクなグミとかチョコみたいに、手軽に摂取できる大好きな味…私はtofubeatsのつくる楽曲にそういう感覚を持っている。親しみやすくて、自分の五感によく合う。
ただ、5曲目からは少し退屈だった。似たり寄ったりの印象が強く…
作業している時、あくまでBGMとして流しておく分には最高(まさに今こうしてレビューを書いてる時みたいに!)だけれど、「あっこの曲のココ好きかも」が、非常に残念だがあまり見つからず、繰り返し聴きたいと感じなかった。
ここを通り越してのNEW TOWNも、ダフトパンクみたいなロボットボイスはすごく面白くて好きだけど、やや暗く、地味というか…よく言えば現代的でクールな印象が続く。
SOMETIMESもああいう風(否それが良いのだろうが)だから、ここらでもう少し火力のある、もしくはボーカル曲を挟んでくれたらまた全体の印象は違ったかも知れない。「もし〜だったなら」という考え方はあまり好きじゃないが、付属の『制作日誌』を読んだら尚のこと、「もしあと1曲入っていたなら?」と思ってしまった。
で、DEAD WAX。
これは勝手な解釈だが、2曲目『SKIT』と対をなす、『RIVER』へ渡るための橋みたいな曲だと考えている。
『SOMETIMES』における、複雑に絡まった心の葛藤や願望を濾過するフィルターであり、サラサラしたわだかまりのない透明な『RIVER』に渡るための架け橋。
残念ながらこの曲も、私にとっては少し退屈な部類で繰り返し繰り返し前のめりに聴く楽曲ではない。
しかし、音楽の題材としては本当に、非常に興味深いと思っている。
何故なら、愛だの恋だの散々歌い尽くされて擦り切れたテーマからかけ離れた、
『音楽が止まってしまった』
という『状況』を歌う『音楽』だから。
止まっているはずの音楽を奏でている、という面白い矛盾。
ピタゴラスイッチやだんご三兄弟の生みの親、佐藤雅彦さんは著書『毎月新聞』で、ゴミ袋の最後の1枚を使う時、それまでゴミ袋を包んでいたビニールが突然ゴミとなり、セットしたばかりのゴミ袋に捨てられる…といった状況をクラクラ構造と呼んでいた。
この『DEAD WAX』は私にとって、まさに音楽のクラクラ構造なのだ。
音楽が止まってしまった時の静寂を、音楽で表現しているから「おや?」とクラクラするのだ。
また曲の雰囲気は温かく柔らかながら、あの一種誰もが経験した事のあるであろう、賑やかな時間が終わった際に味わう一抹の寂しさをとてもうまく表現している。この表現を内包しているが故に決して派手さとは無縁なうえ、ややもすると退屈と感じる曲ではあるのだけれども、疲れてベッドに横たわってぼんやりした夜に聴いた時、この不思議な架け橋の美しさが、『川』を目前に一際耳にしみた。
最後の遅回しは、最早なんと言えばいいか…
初めて聴いた時は本を読んでいたのだが、思わず文字より音に意識が向いて、嬉しさに微笑んでしまったのをよく覚えている。川で洗い流されて平らになった心が、ゆっくり膨らむような嬉しさ。
他の方の素晴らしいレビューで、こちらの方がよりtofubeatsらしい、という意見があったが、そう言われてみると私もそう感じていることに気づいた。
より自然体というか、tofubeatsの言いたいことが『ふめつのこころ』より柔らかく、力まず、明確になっているような気がする。とにかくこのラストナンバーの魅力は、筆舌尽くしがたい。浮遊感、治癒力、足湯、部屋でひとりの時の安心感、静かに燃えるろうそくの火、
書き連ねてみたがどれ一つと言えず、これは一体何に例えればいいのだろう?言葉が足りなくてもどかしい。
ただはっきりしていることは、これこそが私が何回も繰り返し聞きたい一曲だということだ。
一番好きなところは、
『感情はなくなって』から次のサビにいくまでの一連。
もし今後、願い事全部叶えてあげる、と神様が約束してくれたとして。
最初は楽しいだろうけど、幸福感より退屈しか残らない気もする。
先のことはわからないから不安で恐ろしいのだけど、わからないからこそ、不安を退ける方法を模索するのだし、求めるものを探しに行くのだし、答えが出ない分、必死で考え続け、走り続ける必要がある。これが辛くて途中で腐っちゃうことも、ままある。でも、それが端的に生きていくということなのだろう。
最後に、このアルバムというよりはtofubeatsの音楽そのものについて。
私が思うtofubeatsの良いところは、歌詞が「やさしい」ということ。
ほとんどの歌詞が、高尚、難解、捻くれ、それらの対極にあるような、平易な柔らかい言葉で構成されている。
なんつーか肩肘張ってなくて、気楽に聴けるのだ…美術館で絵を観るような荘厳な感じじゃなく(いい意味で)、落ち着く自宅でゴロゴロしながら漫画読むみたいな、普段通りの気取らない気楽さ。
特に疲れてる時に聴くと、水みたいにすーっと浸透してくる(前作の『BABY』と本人歌唱の『衣替え』は私の特効薬)。
そして、tofubeatsの音楽はやっぱり楽しい。歌詞の易しさと相まって、歌いながら踊りだしたくなる、どこか懐かしくて、でもわりとかっこいいアプローチの数々。
tofubeatsのおかげで初めてまともに森高さんや藤井隆さんの歌を聴いたし、PUNPEEやSKY-HI、の子、仮谷さん、玉城さん、dream amiさん等を知るきっかけになった。
私が知っていたのはBONNIE PINK、PES、くるりの岸田さんくらいだったが、特にBONNIEと岸田さんの楽曲を聴いた時、tofubeatsって人は、自分のカラーで音楽をつくることを大前提としても、アーティストが元々持っているテイストになるだけ沿った音楽づくりをしているような気がした。歌詞、メロディー、随所から、tofubeatsが他のアーティストへ敬意を払って作品を作っているのを感じた。
それから、大概の音楽が愛や恋やを表現する中で、『音楽』そのものにまつわる楽曲が多いのも(今回のDEAD WAX然り)、tofubeatsらしさの一つだと思っている。音楽が音楽の中に頻繁に出てくる。この感じは私にとって非常に新鮮で、ああこの人本当に音楽が好きなんだなと、うまく言えないが妙に安心するポイントの一つになっている。
豆腐、ってそのまま食べても美味いから大好きなんだけど、元が柔らかくてさっぱりしているから何にでも合うんだろうね。
今後も素材本来の持ち味を存分に発揮しつつ、色んな料理・ドレッシングと合わせる時も、楽しい味つけに挑戦して欲しいな。次にありつくために私もまだ走り続けなくては。