上位の肯定的レビュー
5つ星のうち4.0「漏れバケツ理論」に基づく地域再生手法を解説する本
2018年4月2日
本書は「漏れバケツ理論」に基づく地域再生手法を解説する本である。『バケツからの漏れをふさぐ』=『地域外に漏れ出るお金を減らし、できるだけ地域内で循環させることにより、域内所得と域内投資を増やす』という考えである(有名な成功事例は隠岐の海士町)。これを全国に広めましょうとなると、経済効率性の低下といった批判も出てきかねないが、「漏れをふさぐ」といっても過度な漏れをふさぐ程度の話なので目くじらを立てることもない。自分たちで何かやれないかと思っている人には参考になる。★4
まずは、『経済バケツからの漏れをどうやって調べるか』。政府が用意したRESASによる簡便法もあるが、しっかりやるなら「わが町の産業連関表を作成してみること」という。
漏れの現状が把握できたら、次に『どの漏れならふさぐことができそうか』。地方都市・山村が現実に移入を代替できそうな分野として、①食物購入、②エネルギー消費、を中心にあげ、さらに域内のお金を域内に投資してもらう方法を論じている。
食べ物については、現に域内で生産している産品については、域内の消費者にどうやって繋ぐか。そして、今は生産していなくてもかつて生産していた産品へ、さらに新たな産品に挑戦してもらうように拡大するわけだが、そのためには従来と違って、地域内の生産量の増減に合わせて、例えば学校の献立を調整するといった消費側の柔軟性も求められるなど調整事項はいろいろある。
また、エネルギーの地域資源を探せば、太陽光や風力、木材チップなどの再生可能エネルギーということになるが、重要なのは「発電施設等を地域で保有することにより、地域内でお金を回すこと」。エネルギー域内循環という話は他でも言われている。本書では触れていないが「太陽光発電の2019年問題」を考えると、電力の地産地消も現実に進むかもしれないと感じた。
そして投資資金の域内循環については、地域金融機関の頑張りに期待しつつ、有望視するのは地域住民による「クラウドファンディング」。紹介されているのは、域内に唯一残った商店・ガソリンスタンドが遂に撤退することになった場合、地元住民の出資で維持する取組(ただし、それだけではじり貧に陥るので、他の事業と繋がる必要あり)。
著者が繰り返し強調しているのが『課題があるからといって、すぐにプロジェクト化するのではなく、まず現状をじっくり調査・分析せよ』。しっかり調査分析した上で取り組んだ成功事例として、熊本県水俣市(環境首都)と北海道下川町(林業活性化&エネルギー自給)、また、英国トットネス(Totnes)の「トランジション・タウン」(エネルギー危機や金融危機に強靱な地域)の取組が紹介される。
「どの漏れをどうやってふさぐことができるか」について、地域のステークホルダー(消費者、生産者、商店主、行政など)と認識を共有できれば、広範な参加が見込まれ、うまく回っていく可能性が高まるということである。