上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0時は第4巻終了直後という彩昂祭と、本作開始から十一年前の南宮那月が描かれる番外編第二弾
2022年1月28日に日本でレビュー済み
彩海学園の学園祭である彩昂祭が描かれる連作短編と、南宮那月が絃神島にたどり着く前、
ロタリンギアで何をしていたかが描かれた短編で構成されている。
『前夜祭』
時系列的には第4巻の直後。彩海学園の学園祭である彩昂祭の開催を明日に控え、
『VRMMOお化け屋敷』を出し物にしている高等部一年B組では藍羽浅葱を中心に
調整作業を行っていた。
一方、暇人認定され、小間使いをさせられていた暁古城は煌坂紗矢華とラ・フォリア
からの電話によりラ・フォリアが国際会議のついでにこれから彩海学園を訪れることに
したことを知る。ところが古城が目にしたのはどういうわけか幼児の姿となってしまった
紗矢華とラ・フォリアだった。
一方、絃神島の拘置所では二人の魔導犯罪者が逃亡し、No.014なる物が盗まれると
いう事件が発生したが、現場を訪れた南宮那月にはあてがあるようで――が冒頭のストーリー。
誰が『魔導犯罪者』を逃がしたのか、そして誰がLCOの魔導書No.014が紗矢華と
ラ・フォリアに対して使われ、そもそもなぜ使う必要があったのかという謎が
提示されたかと思いきやあっさりあらわれた犯人そしてある意外な方法により
解決へと向かうさまが描かれている。
あと、『幼児化』の影響が無くなれば……まぁ、こうなるわな。
『開幕』
MARで開発されたものの、あまりの効果の強さに破棄予定だったとある薬が
誤って出荷されるというトラブルが発生してしまい、急遽自身の子どもたちが
通う彩昂祭真っ只中の彩海学園を訪れ、古城、矢瀬基樹、浅葱にチョコレートの
形をした媚薬が彩海学園に出荷された旨を伝える。深森が生物準備室の薬品類で
解毒剤を作る傍ら、三人は媚薬を回収するべく校内を駆け巡る――が冒頭のあらすじ。
解毒剤を学校の備品の医薬品で作るのかよという学園都市もびっくりな
オーバーテクノロジーぶりに心の中でツッコミを入れる一方、媚薬をチョコレートの
形にしたというストーリーから、古来、チョコレートが媚薬であると信じられていた
という歴史的背景を組み入れていることが分かる。また、媚薬、あるいは惚れ薬と
聞くと眉唾物の印象を受けるが、現実世界において抗不安薬である
ロラゼパム(商品名ワイパックス)やジアゼパム(商品名セルシン他)、
抗うつ剤であるSSRIやSNRIが脳の動きに影響を与えることで治療することを鑑みれば、
脳にどのような影響を与えれば恋愛感情を抱くかが分かりさえすれば理論上
作ることは可能ではある。ただ、特定の人物に対してピンポイントで好意を
抱かせることができるかどうかは難しいところだが。
『彩昂祭の昼と夜』
高等部一年B組の出し物であるVRMMOお化け屋敷がひと段落し、校内を回る古城と浅葱。
そんな中、二人は実行委員からベストカップルコンテストへの参加を打診され、
古城と一緒に参加することと賞品に目が眩んだ浅葱は参加を決める。
一方、体育館では雪菜のクラスの出し物である『西遊記』で雪菜は孫悟空役を
なぜか土佐弁で熱演していたが、突如としてスケルトンとガーゴイルの襲撃を受け、
メイヤー姉妹の脱獄を手引きした者を探しに彩昂祭を訪れていた仙都木優麻と
共闘する――というストーリー。
古城が体験した内容から推測するに、VRMMOお化け屋敷は単なるVRコンテンツではなく、
ソードアート・オンライン(SAO)のナーヴギアを彷彿とさせる、高い没入感が得られる
ものであることが示唆されている。
また、雪菜のクラスの出し物である『西遊記』で土佐弁が使われているのはおそらく
『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』のオマージュであること、叶瀬夏音の懺悔室に
おける『それでは病気の妹さんはいらっしゃらなかったんですね……よかった』
という台詞からアルゼンチンのゴルファー、ロベルト・デ・ビンセンゾの有名な
小話が元ネタであることが推察できる。
『終幕、そして……』
前章の世界がVRMMOお化け屋敷を稼働させていた中古サーバが作り上げた虚像であり、
そこに残されていた闇誓書の記録により『汚染』されたモグワイの仕業によるもので
あると判明した。元に戻すにはバックアップデータを使い汚染前の状態に
ロールバックを行う必要があるが、それができる『電子の女帝』浅葱は
本来キーストーンゲートがある場所が書き換えられ、さしずめ魔王城のような
おどろおどろしい場所に囚われていた。
浅葱を取り戻すため、古城、雪菜、優麻、リディアーヌ・ディディエは『魔王城』
と化したキーストーンゲートへ向かうが――というストーリー。
この話で、リディアーヌ・ディディエが乗り回している戦車がEVと分かる一方、
充電方法が家庭用コンセント(AC100V)と性能の割にヤマハe-Vino並という脆弱さ
(同車がダメということではなく、同車がアンペア数(電流)を必要とする急速充電よりも
家庭用電源で充電できる手軽さを取ったということである)が露わになっている。
ただ、ディディエ工業が欧州の企業であることを鑑みれば実際はAC100-240V対応で
ある可能性が高いが、どんなに電圧が高くても電流が低ければ充電に時間が
かかることに変わりは無い。(ゆえに家庭用EV充電コンセントは充電時間短縮のため
エアコン同様分電盤で一般の電力から分岐される)
ここでも様々なパロディが埋め込まれており、森の中での『姫柊、後ろだっ』は
言うまでもなく『志村後ろ』が元ネタであり、魔王城の入口付近にいた凪沙の姿は
まさに番町皿屋敷であり、極めつけは『魔王城』の各階で妖怪と化した主要登場
人物たちと対決するというストーリーはブルース・リーの遺作『死亡遊戯』の
オマージュであることが分かる。
『Early Days』
この章のみが彩昂祭を描いた話ではなく、ロタリンギアでブレーデ家の庇護を
受けながら自身の両親と弟そして同様にフィオレラ・ブレーデの両親と祖父を
殺した犯罪組織『血の天秤(イクリブリアム)』を殲滅せんとする、絃神島に
やって来る前である十一年前の南宮那月の姿が描かれている。
当然ながら短編なので複雑な話にすることはできないが、それでも
『血の天秤(イクリブリアム)』の意外すぎる真相や情報屋の正体を織り込むことで
まとまったストーリーとして昇華させていることが分かる。