上位の肯定的レビュー
5つ星のうち4.0台湾で国民的名画と呼ばれている作品
2019年9月22日に日本でレビュー済み
レンタルになかったので新品をアマゾンで購入した。安くはなかった。作品は自分が想像していたのとかなり違った。228事件を描いた作品と聞いたが、舞台は台北ではなく台湾北部の港町・基隆(キールン)と九份(ジォウフェン)。現在九份は台湾の観光スポットとして絶大な人気を誇るが、そのきっかけはこの「非情城市」の舞台になったからだという。しかしこの作品で九份はそうした魅力的な描かれ方も写し方もされていない。つまりそれだけ、この作品がタブーであった「228事件」を描いたことから、いかに多くの台湾人(タイワニーズ)のこころに深く刺さったかが理解できるのだ。
「非情城市」は159分もある長編。独特の表現方法で描かれていて、見るものが作品に寄り添おうとしない限り最後まで見ることは難しい。カメラは据え置きで、サイズも変わらなければ、PANもほとんどしない。その前で役者が演じる数少ない台詞から彼らの心情に寄り添わないと物語りは理解できない。なんども同じシーンが同じアングルで登場する。みるものはその前で定点観察のように時間の移り変わりをみて、日本敗戦の引き上げから中国国民党の支配、戒厳令体制に入るまでの台湾人の翻弄される様子を見ていくことになる。
ここから先は、映画の中では立ち入って紹介されていない。主人公達がラジオから伝え聞く情報をもって観客も物語を理解することになる。なので228事件の概要を知らないままこの映画を見ることは難しい。
228事件は、日本が台湾領有の権利を放棄したあと台湾に乗り込んできた中華民国政府(外省人)が、台湾に生え抜きの人々(本省人)に対して行なった統治に対して、本省人がその不満を爆発させたことに端を発す。台湾の財産を略奪する行動や、台湾へのアヘンの密貿易で儲けようとする上海マフィアの暗躍などは映画でも描かれる。1947年2月27日、台北市で闇タバコを販売していた女性を中華民国の官憲が摘発。女性を銃剣で殴打し、所持金まで没収したことをきっかけに民衆が抗議運動を起こすが、しかし外省人の官憲は集まった民衆に発砲。まったく無関係な本省人を死亡させた。この事件をきっかけに、市庁舎へ押しかけた抗議のデモ隊に対し、機関銃での無差別掃射を行い、多くの市民を殺害した。この後、国府軍は台北以外の各地でも台湾人への無差別発砲や処刑を行い、恐怖政治を推し進めていく。裁判官・医師・役人をはじめ日本統治時代に高等教育を受けた知識人層を次々と逮捕・投獄・拷問し、その多くを殺害した。そしてそうした体制は、李登輝が本省人として初めて中華民国総統の座についた1987年まで続いたのだ。事実、中華民国政府による戒厳令は1987年まで続き、長い間本省人は言論統制下に置かれ続けた。
この作品は1991年に公開され、初めて228事件の成り行きを基隆の林家一族を通して描いた。こうした背景を理解しないと、この作品もまた理解できない。今台湾を訪れると民主化が進み人々は明るい。しかしこうした抑圧の時代を経て勝ち得た自由が今日の台湾を形作っていることを忘れてはならない。40年以上の圧制下に置かれながらも自由を渇望する誇りを忘れなかった台湾の人々に最大限の賛辞を贈りたい。
続いては「セデック・バレ」を観るべきだろう。