上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0日本が世界に誇るトリビュート・アルバム
2015年1月11日に日本でレビュー済み
ボサノヴァの聖典「Getz / Gilberto」は、Stan Getz、Joao Gilberto、Antonio Carlos JobimそしてAstrud Gilbertoなどのメンバーがニューヨークに集い、1963年3月18日〜19日に録音されました。
Getzの洗練されたサックスと、音楽そのものが洗練の極みであるボサノヴァが奇跡の邂逅を果たし、全世界で大ヒット。グラミー賞を受賞すると共に、作曲家Jobimの名を不動のものにしたアルバムでもあります。
さて、この「Getz / Gilberto +50」は、ボサノヴァを愛する日本の一流ミュージシャン達が、「Getz / Gilberto」の生誕50年の節目を記念して、曲順も全くそのままにカバーした作品集。
プロデュースは、その存在なしに日本のボサノヴァ界を語れない、naomi & goroのギタリスト・伊藤ゴローが担当しました。
ここに集結したミュージシャン達にとっても、「Getz / Gilberto」に収録された曲を歌い、演奏するというのは、相当なプレッシャーがあったはずです。
しかし、全編でギターを演奏したゴローさんの人柄がそうさせたのか、緊張感の中にもボサノヴァ特有の和み、そしてディープな感覚が漂っていて、日本が世界に誇るトリビュート・アルバムに仕上がっていると思います。
1曲目「The Girl from Ipanema」は、Jobimとボサノヴァの詩人Vinicius de Moraesの作品で、ボサノヴァを好まずとも、この曲を知らない方はいないでしょう。サックス奏者・土岐英史の娘さん土岐麻子が愛らしく歌います。ピアノはなんとフリーの人・山下洋輔。Getz役は、naomi & goroと「calendula」をものにした鬼才・菊地成孔。オリジナルより、ベース・ラインが強調されており、ラウンジ感が漂います。菊地さんのサックスもよく歌っている。
2曲目「Doralice」(Dorival Caymmi)は、ゴローさんの相方・布施尚美が歌います。尚美さんの明るい人柄が伝わって来るような歌いぶり。菊地さんのサックスはますます快調。
冒頭の2曲だけで、このアルバムの水準の高さは、証明されたようなもの。
3曲目「Para Machucar Meu Coracao」(Ary Barroso)の深みをどのように言い表せばいいのでしょう。ボサノヴァにはずっと興味がなかったという細野晴臣を、ボサノヴァに近づけたのは、当のゴローさんです。細野さんの低い声は、ボサノヴァとあまりに相性がよく、かえって避けていたのでは、と勘ぐりたくなるほど。清水靖晃のサックスも深いところで響き、坂本龍一のピアノにはJobimへの想いが込められています。
細野さんには、まるごとボサノヴァのアルバムを制作して頂きたいと思うのは、私だけではないはず。
山下さんのピアノから始まる4曲目「Desafinado」は、「・・Ipanema」同様、あまりに有名なJobimの曲。坂本龍一の娘さん坂本美雨が英語の歌詞で歌います。ここでも愛らしいヴォーカルが、曲の良さを引き立てています。
5曲目「Corcovado」も、Jobim,の名曲。カヒミ・カリィが得意のwhisper voiceで雰囲気たっぷりに歌います。ボサノヴァにおけるヴォーカル表現をつきつめたような歌と演奏。
軽快な6曲目「So Dan'o Samba」 (Jobim・de Moraes)を歌うTOKUはフリューゲルホルン奏者でもあり、jazzyな雰囲気を漂わせています。TOKUさんは、堂々たる歌いぶり。終盤のスキャットとピアノの掛け合いも粋です。
7曲目「O Grande Amor」(Jobim・de Moraes)は、グラミー賞を受賞したJobimの「Antonio Brasileiro」にも参加していたJaques Morelenbaum(チェロ)が、坂本龍一(ピアノ)、鈴木正人(ベース)、伊藤ゴロー(ギター)とともにJobimへの畏敬の念が込められた演奏を披露。オリジナル盤は、Getzのサックスが主導する曲でしたが、ここでは、Jaquesの味わい深いチェロに続く坂本教授の端正なピアノが、オリジナルとはまた別の魅力を引き出し、次元がひとつ高くなったような印象を受けます。このアルバムのベスト・トラックであることは、間違いないと思います。
8曲目「Vivo Sonhando」(Jobim)は、オリジナル盤のラストを飾る曲で、ゴローさんがアルバム・プロデュースを担当したこともある原田知世が歌います。知世さんのストレートな歌唱がボサノヴァのリズムによくお似合い。
9曲目「イパネマの娘 (日本語ヴァージョン) 」は、ボーナス・トラックで、ブラジル留学経験もあるというモデル・沖樹莉亜が歌います。この曲の素晴らしさは、どの国の言語で歌われても変わらないことが証明されている。
ともすれば、散漫になりがちなトリビュート・アルバムに統一感をもたらしているのは、ゴローさんの素晴らしいプロデュース力によるものだと思います。また、オリジナルに敬意を払ったジャケットも魅力的。
地元ブラジルの方々にも是非、聴いていただきたいと切に願います。