上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0核ボタンを前にした信念の激突、潜水艦映画の至宝
2019年1月16日に日本でレビュー済み
自分の好きな潜水艦映画は三作ある。第二次大戦末期の潜水艦乗りの絶望的悲劇が迫真の「Uボート」、東西冷戦下の原潜亡命トリックが痛快な「レッドオクトーバーを追え」、そして対ロシア反乱軍への核攻撃を巡る艦内対立が緊迫感抜群の本作「クリムゾン・タイド」だ。
それぞれにテーマは異なるが、海面下に隔絶された潜水艦だけが持つ本質的な恐怖、単独艦行動による作戦の独立性、対潜・対艦・対基地の攻撃バリエーションの豊富さ等が特徴的で、何れも潜水艦ニッチ・カテゴリーで記憶に残る傑作だ。
特に本作はキューバ危機の際に旧ソ連原潜で実際に起こったクーデター未遂事件に基づく圧倒的なリアリズムに加え、軍部内人種差別、現場叩き上げとエリート参謀の衝突、固定メンバーでの権力長期化による牽制形骸化リスク等、組織疲労の現実が丁寧に描かれていて中身はズッシリ見応え十分。
新任エリート副長デンゼル・ワシントンと百戦錬磨の艦長ジーン・ハックマンの腹の探り合いから始まる対決には手に汗握る。言葉とは裏腹に経験と実績、歴戦の部下達を従えて圧倒的な力の差を誇示する艦長と、理論武装と信頼に足る部下の掌握を優先する実利的な副長は、水と油だが必ずしもどちらか一方が正解ではなく、二人合わせてバランスある人格なのだが、部下も巻き込むから質が悪い。
核ボタンの最終決定権限なら尚更なのだが、本作のトラブルシナリオでは特に慎重で深い洞察力こそが求められる。そこに個人的な確執が持ち込まれれば、冷静な判断力が失われ、新たな危機が生まれる。私情排除は権限者にとって往々に難しい。その怖さを痛切に学べる事が本作からの最大の恵みだろう。
パイロットの正副操縦士や企業の部長・副部長の関係も同じ。流石は名監督トニー・スコット、現代社会の世代交代の難しさを鋭く刮破した示唆には驚くばかりだ。特にデンゼルの「核の世界における最大の敵は特定国ではなく戦争そのもの」の台詞が一番核心を突いていた。左様に脚本は格調高く、ハンス・ジマーの音楽も冴え渡り、信念の激突が痺れる傑作です。