上位の批判的レビュー
5つ星のうち2.0考えが甘いの一言です。
2019年1月31日
まずこの著者は経済の基礎に対する理解が深く、かつそれをひとにうまく説明する技術に長けているいることは認めなくてはならないでしょう。通貨がどのように増えていくかという説明はだれでも「なるほど~」と頷いたのではないでしょうか。ところが、それ以後の提案はやや(いやかなり)極端な個人的な意見としかいえないのではないかと思いました。
まず政府通貨の発行問題ですが、この問題ほど長く各国で議論されてきた問題はありません。著者は発行された通貨は日銀の政府当座預金の中に保管されたまま動かないから問題はないとすました顔をしていますが、この問題がどれだけ多くの事件・議論を生んできたのかを全く説明していません。エッと思われるかも知れませんが、リンカーンやケネディの暗殺もこの問題が関係しているという説もあるんですよ。政府通貨問題はとてもここで論じきれるような問題ではありません。ネットで「政府通貨」といれて検索してみて下さい。ヒット量にびっくりするはずです。とにかく各方面の議論に目を通されることをお勧めします。
ベーシックインカム問題についても考え方が楽観的に過ぎます。一般にこの著者は性善説に立ってものを考える方のようですが、人間はそんなに良心的な生き物ではありません。また、パレートの法則ではありませんが、本当の意味で生産的な仕事に従事しているひとというのは人口の2~3割で、それ以外のひとは自分が食べていくという以上に生産的なことはしていないというのが現実です。またBIとは関係ありませんが、国鉄や郵政の民営化がいけないようにいいますが、昔の国労や動労のあの騒ぎや職員のサービスの悪さを覚えているひとには噴飯物の議論でしょう。郵政にしても物流関係の仕事に従事されていた方(かなり年配の方でないと分かりませんが)郵便局がどれだけ意地悪なことをしてきたことか。詳しくは書けませんので山本夏彦翁の昔語りなどを読んでみて下さい。とにかく人間というのは競争とその報酬という原理がないと動かない存在なのです。そういうどうしようもない存在であることを前提に政治や経済は論じられなければならないのです。
さらに付け加えれば、相続増税の問題は多くの格差に悩んでいる人々にとって拍手を送りたくなる提案のように見えます。しかし、現実には遺産税によっては社会格差は是正されませんし、頭脳流出や産業空洞化の原因にもなっていることを考えてみる必要があります。
1998年年にアメリカ議会合同経済委員会は「遺産税(つまり相続税)の経済学」なるレポートを提出し、11項目にわたる反対意見を並べました。この中には やや抽象的なものもありますので、主なものをご紹介すると、○まず余りに高額な遺産税は懲罰的な色彩が強く反社会的である。○中小企業を解体させる主要な原因になっている(これは身につまされる人が多いのでは...)。○不要な土地開発の原因になっている。○遺産税徴収のためのコストが無視できない(つまり税として非効率的)。○生前の納税額を考えたとき、事実上の二重課税である。とした上で、極めつきなのが、○現在までの経験から遺産税には不平等の解消に実効があったためしがなく、むしろ消費の不平等をもたらす、というものでしょう。実際多くの国で遺産税は廃止されています。
ただし、消費増税の問題は著者はとは違った立場からではありますが、反対です。我が国はまだデフレから脱しきっていません。いままで安倍政権と日銀はとにかく流通貨幣量を増やすことによって、何とか凌いできたのです。いま流通貨幣量を減らす政策をとってどうしようというのでしょうか?これには政府の借金がこれだけ膨れあがって国が破産するというマスコミを中心とする俗論が大きく寄与しているのではないかと思いますが、日本国債は日本円で発行されており、その9割以上を国内の企業(主に金融機関ですが)が所有しています。なぜ破産に繋がるのか理論的に説明して欲しいものです。とにかく国の借金を税金で返すという発想自体がまず誤りなのです。
我が国の対外債権については我が国の安全保障問題であると考える必要があります(この問題はここで議論するのにはふさわしくない問題なのでしません)。その他、将来国の枠を越えた経済が成立していく希望などを述べていますが、話になりません。ではボルシェビキはなぜ国際共産主義の確立ができなかったのですか?なぜEUが今破綻しようとしているのですか?移民のトリレンマという言葉をご存じでしょうか。とにかく国家の安定・安全の根底にはナショナリズムがあり、人間は“国”、“民族”というものを越えてものを考えることはどうしてもできない存在なのだという理屈抜きの現実を見つめることから始めなくてはならないと思うのです。