上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0随所で、筆者の移民問題に関する見識や掘り下げの深さ、問題点の把握力・分析力の高さに感銘を受けた
2019年3月17日に日本でレビュー済み
本書で筆者は、「日本にも移民が存在し、取り組むべき移民問題が存在する」として、現在に至る様々な移民問題の実相を明らかにしつつ、「こと移民に関しては、今のところ、外部からそっくりそのまま移植できる正解は存在していない。だからこそ私たちは今考え始めなければならない。移民にどう向き合うかを。そして、移民を必要とし、同時に移民と生きていくことに困難を抱える「私たち」にどう向き合うかを」としている。
筆者はまず、日本政府は外国人労働者を「いわゆる単純労働者」と「専門的・技術的分野の外国人」に二分し、1992年に閣議決定された雇用計画で前者の受け入れに伴う様々な懸念を列挙して、表向きは後者のみを受け入れるというスタンスを取ってきたが、裏側では現実の労働需要に応えるためにフロントドア(就労目的の在留資格)のほかにサイドドア(非就労目的の在留資格)を機能させて前者を積極的に受け入れてきた結果が、日系人とその家族、研修・技能実習生、留学生たちの急増だとし、自分自身で並び立てたもっともらしい懸念は一体どこに行ってしまったのだろうかと、政府の根本的な欺瞞を批判するとともに、「いわゆる単純労働者」という言葉の背後には、日本人の非正規労働者の増加とも一体となった、「安価で不安定な労働者たちの世界」が広がっているとしている。
技能実習生や留学生が陥っている低賃金・長時間の劣悪な労働環境については、我々もマスコミ報道や本書のような本で知るようになっているが、筆者は、こうした問題は、これまで真正面から外国人労働者を受け入れてこなかった日本のサイドドア政策自体から帰結した構造的な矛盾の現れであり、忘れてならないのは、その矛盾から生じるリスクを一手に引き受けてきたのが、彼らを受け入れる日本社会の側ではなく、外国人労働者たちの側だとし、実習先から失踪した実習生や、上限を超えて働いてしまった留学生の報道などに触れるときに覚えていてほしいと語っている。
また筆者は、2018年7月から始まった日系四世の受け入れ制度が、若くて健康、病院を利用せず、単身で家族を持たず、ある程度は日本語ができ、犯罪歴もなく、社会保険に頼らずとも自分の生計を維持でき、数年以内には自分のお金で帰国していくという、技能実習や特定技能にも相通ずる随分と虫のいい厳しい条件によって停滞していることも例に挙げ、もし今後も日本で働くことにメリットを感じる外国人を一定の規模で確保し続けたいのであれば、現在ある制度を誰にとってもフェアで透明性の高い制度へと着実に作り変えていく必要があるのではないだろうかとも述べている。
ここで「特定技能にも相通ずる」と筆者が評している2019年4月から始まる外国人労働者をフロントドアから受け入れる新たな在留資格「特定技能」の問題点について筆者は、特定技能は技能実習の存在を前提としており、技能実習を実質的に延長するものであるという側面が色濃く、矛盾の多い技能実習を代替し、将来的に廃止するといった道筋が描かれているわけではないこと、技能実習と同様、送り出し国側と日本側の双方において民間の事業者が介在する形となっていくことが間違いないこと、「移民政策ではない」という言葉が新たな制度の具体的あり方の一つひとつとして表現されていき、技能実習2号→特定技能1号→特定技能2号→永住権取得の流れに、特定技能2号の開始の先送り、2号の対象分野の大幅な絞り込み、技能実習と特定技能1号に基づく在留期間を永住許可に必要な在留期間に含めないといういくつもの高いハードルが張り巡らされることなどを挙げ、これまでサイドドアからの受け入れに伴ってきた建前と現実の乖離が乗り越えられるわけではなく、むしろまた新たな矛盾が作り出されようとしていると批判している。
筆者は終章で、有期の在留資格を持つ外国人に対して日本という国家が取り結ぶ関係は、非正規社員に対して企業が取り結ぶ関係に似ており、その関係をどうするかは国家や企業の方が決められる。自由や裁量は、一人ひとりの人間にではなく、統治する側、雇う側に留保されており、国家や企業は一人ひとりの人間たちから撤退し、それによって個々人の人生に降りかかる「面倒ごと」から自らを開放しようとしているとし、今、目の前にふたつの道があるー撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは「彼ら」の話ではない。これは「私たち」の問題であると結んでいる。
ここまでを読めば理解していただけるのではないかと思うのだが、私は随所で、筆者の移民問題に関する見識や掘り下げの深さ、問題点の把握力・分析力の高さに感銘を受けたことを最後に強調しておきたい。さすがに、国内外で移民・移民問題を取材し、日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジンの編集長をしているだけのことはあると感心もさせられた。