上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0日本的美意識の在り方を当代随一のストーリーテラーが紡ぎ出す!切なくも美しい感動の物語です!
2019年3月27日に日本でレビュー済み
とても同じ作家が書いたとは思えないような様々なジャンルの作品を発表される百田さん。
そうした一連の作品群の中でも、本作は「永遠の0」のテーマにも通底するような、人間の心が持つ究極的なまでに美しい部分を描き出した素晴らしい著作であると思いました。
主要登場人物たちの自己犠牲の精神・・・この極めて日本人的な美徳には、本当に感性を刺激され、心を揺さぶられます。
物語は、冒頭近くからいきなりクライマックスを迎えます。
幼子を残して理不尽なる非業の死を遂げる愛多き父の姿に、何とも言いようのない悲しみや怒りで胸がえぐられるような気持ちにさせられます。
そしてその後は矢継ぎ早に物語は展開していき、感動のラストシーンを迎えるまで、全篇一気に読み切らせてしまいます。
この、人の心を感動させつつも面白いストーリーを紡ぎ出していくという手法は、まさしく著者ならではの持ち味であり、あらためて氏が生み出す物語の真骨頂を見た思いがしました。
具体的な内容について少し言及させて頂くと(この辺りからの文章にはネタバレが含まれてきますので、本書未読の方は読まれない方が良いと思います)、この物語の圧倒的キーパーソンはやはりみねの存在だと思いました。
その意味でも、補足的に付けられた巻末の「袋とじ」は極めて有意義なものであったと、個人的には思っています。
勘一の夢、それに心動かされた彦四朗、そんな二人に心の底から愛されていたみね。・・・
この時に生じた何とも言えぬ微妙な心の動きが、本当に切なくて、胸が張り裂けそうな気持にさせられます。
恐らく彦四朗は、理不尽な身分制度の存在や百姓一揆後の後始末なんかを体験した上で、自分とは全く異なる視点での世直しを考え出した勘一との絆の中に、友情以上の価値を見出したのでしょう。
この時、彼は一生をこの男のために捧げることを決意したのだと思います。
そしてみねは・・・
自分のところでしがない下女として一生を終えるよりも、心から尊崇する男の下で、彼のことを支えつつ女としての幸せを掴み取って欲しい。
自身の彼女に対する愛をその身に噛みしめつつも、彦四朗は二人のことを思い、自らを犠牲にしたのです。
そんな彦四朗の思いを知っていたのかどうなのか。・・・
みね自身は愛する男の心の底から出た言葉と、自身の置かれた避けられぬ環境の故に、勘一の妻となったのでした。
彼女にとってこの婚儀は、彦四朗への愛ゆえのものであったとも言えるでしょう。
そしてまた、結婚後にかいがいしくも勘一のことを一途に愛し続けたこと自体も、ひょっとすると彦四朗への思いの強さ故でのことであったのかもしれません、。
そうした諸々事情があったが為に、彦四朗は再三に渡って、勘一を決死の思いで助けたのです。
本書のタイトル通りの、まさしく「影法師」となって。・・・
みねの不幸に直結する彼の死は、彦四朗にとっては絶対にあってはならない事態。
何故なら彼は彼女に対し、「どんなことがあっても護る」と誓ったのだから。・・・
・・・その深すぎる愛ゆえに自分を犠牲にし、他者の幸せを願う。
日常自分の欲望に対して直情的に漫然と生きている自分のような人間には、とても真似できない生き様であると思い、深く感動させられました。
彼らの様な凄まじい生き方はできなくても、その精神の一部でも見倣えたなら・・・、などと感じながら本書を読み終えた次第です。