上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0マスコミが報じない「もう一つのアメリカ」
2018年12月19日に日本でレビュー済み
著者の江崎道朗氏は、2016年10月、米大統領選の1ヵ月前にトランプ当選の可能性を指摘する本を出したことから、「トランプの台頭を正確に分析した数少ない言論人の1人」として知られるようになった。特に、国際政治の動向を踏まえて経営判断を下さなければならない経済人から講演を依頼されることが多くなったという。
「日本の新聞報道を信じたばかりに数億円も損をした。そんな失敗を繰り返したくないので、江崎さんの話を聞こうと思った」と、ある経済人の会合で言われたという。
江崎氏は30代半ばだった1997年、70歳過ぎの米軍の元情報将校と親しくなり、多くの事を教わった。
第二次世界大戦後、アメリカはソ連の脅威から自由主義陣営を守るために、同盟国が自助努力をしなくても守ろうとしてきたが、それは間違いだったということが、ベトナム戦争で明らかになったという。アメリカが何でも援助したため、南ベトナムは自分自身で何も行わなくなり、アメリカの援助がなくなるとすぐに崩壊してしまった。こうした教訓から「自助努力をしない同盟国を守ることはできない」と考えるようになったという。そして「同盟は、ギブ・アンド・テイクであり、アメリカにとっても利益になるから続くのであって、アメリカの国益につながらない限り、日本を守るわけがない」と言われたという。
更に近年においては、米軍が外国に行くためには、アメリカ国民と国会の両方に支持される必要があるため、日米同盟を維持するためには、日本が自助努力するだけでなく、米軍が日本を助けることをアメリカ国民と議会が支持するよう働きかけておかなければならない、とも言われた。日米同盟が機能するかどうかは、日本がアメリカに働きかけてこそ成り立つのだという。
江崎氏は真珠湾攻撃から50年後の1991年12月7日、アメリカ政府主催の記念行事に参加した際、1人のアメリカ人から「あのパールハーバーはルーズヴェルトが仕掛けたことで、アメリカは日本に謝るべきだ」と申し訳なさそうに言われたという。アメリカでは戦後、ルーズヴェルト民主党政権の戦争責任を追及する本が多数発刊されているが、そうした事実を認識している日本人はほとんどいない。
またその時、「リメンバー広島」「リメンバー長崎」「リメンバー東京」の横断幕を掲げて抗議するアメリカの青年グループもいたが、翌日の新聞にはこの抗議行動は書かれていなかった。こうしたことから、江崎氏は、日本のマスコミだけでなく、アメリカのマスコミも偏向しているのではと思うようになる。
アメリカのような民主主義国家では、歴史の評価は政治的な関係によって変わっていく。また、アメリカの歴史学者のなかには、ルーズヴェルト民主党政権が日本を挑発したため、日米戦争になったとする見方をしている人もいて、アメリカ政府もそうした歴史研究の成果を無視できなくなっている。アメリカには多様な歴史認識があり、決して一枚岩ではないのである。
ところが日本のマスコミは、アメリカは「日本は侵略国家である」という認識で、日本の保守派を批判しているという構図で日米関係を論じる事が多い。
アメリカでも共和党の支持者の多くは「ルーズヴェルトが工作をして、日本に真珠湾攻撃を促したという事実を理解している」と述べている。江崎氏がアメリカを代表する大物言論人に、なぜそうした事実が日本人に知らされていないのか尋ねると、アメリカのマスコミの大半が民主党支持で、保守派の意見は国際社会ではほとんど紹介されないことや、アメリカのアカデミズム、特に大学はリベラル派が主導権を握っており、学術レベルでもアメリカの保守派の動向が研究されているとは言い難いということを挙げた。
江崎氏は、他の人達にも聞いてみて、第二次世界大戦後のアメリカ政治は、民主党を支持する「ニューディール連合」vs共和党保守系の「草の根保守主義連合」との対決構図であることなどを知る。そうしたことから、江崎氏は、日本で語られてきたアメリカの戦後史は「アメリカのリベラルの戦後史」にすぎず、もう一つの戦後史「保守主義者たちの戦後史」があったことを実感する。
アメリカのマスコミが報じているのは「民主党を支持するアメリカ」だけであり、アメリカの報道を日本に紹介するだけの日本のマスコミは「民主党を支持するアメリカだけがアメリカである」かのように報じている。だからこそ、先の大統領選挙で大多数のマスコミと政治学者、そして外交評論家たちが「ヒラリー当確」を予想し、見事に外すという恥を晒したが、なぜそうなったかということに対する本格的な反省が行われている様子はない。トランプ当選を予見できなかった失敗を繰り返したくないなら、何よりアメリカの政治をより的確に分析したければ、マスコミが報じない「共和党を支持するアメリカ」があることを知っておく必要があると、江崎氏は述べている。