上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.02023年に読んだとしても尖っている
2023年11月19日に日本でレビュー済み
この小説は物語の定番を否定する
①主人公にとことん人間味がない
主人公には悩みもなければ目標もない。ただ周りのキャラクターやることに巻き込まれているどこまでも「受動的」なキャラクター。なぜそうなのかということ、物語においてこの主人公は「純粋な視点」として存在するため。ババ抜きに喩えるなら、普通の物語の主人公はプレイヤーとして参加して、読者は主人公の手札を見て負けそうになったり勝ちそうになったりを楽しむ。だがこの本の面白さはババ抜きで参加するプレイヤーを追体験することではなく、テレビで放映されているような芸能人がババ抜きをしているそのリアクションを楽しむことであり、神の視点に立つこと。そのため主人公はプレイヤーではなくカメラマンとして存在している。そして主人公はアナウンサーでもあり、時折癖のある実況をして読者を楽しませる。
だがこれが無理だという人は絶対にいる。他人がババ抜きしてるのを見てなにが楽しいのだという人もいれば、このアナウンサーの喋り口調がムカつくという具合に。
②厳密には1つの長編ではなく、3つの短編が合体した作品
普通の物語では主人公一人に対しガイド役が一人なのだが、この作品は三人のガイド役がいる。ガイド役というのは物語のなかで誰よりも情報を持っていて、主人公を手助けしてくれる。そのガイド役が三人いるということは、普通の物語なら一回で済むことを三回やることになる。具体的には、主人公の前にガイド役が現れて突拍子もないこと言う→だが主人公はそんなバカなことがあるかと信じない→しかしガイド役の話を信じる他ない出来事が起きる→主人公はガイド役の言うことを信じて困難に立ち向かう。
これら三つを涼宮ハルヒという少女が持つ設定によって無理矢理束ねている。だが三つあるストリーラインのなかで物語を成立するために必要不可欠なのは一つだけであり、他の二つはなくても話を成り立たせることができる。そのため冗長であるという意見はその通り。
③全ての登場人物の目的が「現状維持」、小説というより設定集
登場人物のほとんどは「現状維持」を目的としているため、謎を解いたり、敵と戦ったりとかをしない。それなのに300pをどうやって持たせているのかというと「設定」である。描写ではなく「設定」を他の小説の何倍も入れることによってページを持たせている。というか設定だけでできている本と言っても過言ではない。三人のガイド役が出てきて、それぞれ面白い設定を話してくれるのだが、そこから物語が始まったりはしない。なぜかというと、そこで物語を始めてしまうと他のガイド役が出てくる隙間がなくなってしまうため、異世界に転生したり、謎の組織に狙われたりはしない。ガイド役たちは主人公をそういった物語に巻き込むことはせず、ただ面白い小話をするだけに終始する。
④結末が予想できない。
なぜなら物語が始まらないから。密室で人が死んで始まった物語の最後は「誰が、どうやって殺したのか」を明らかにすること、お宝求めて主人公が海に出る物語の最後なら「主人公はお宝を手に入れるのかどうか」を明らかにすること。物語というのは始まった瞬間に終わりがおおよそ決まるのだが、この本は上で書いた通り物語が全く始まらない。物語が始まると言えるのは、ラスト10%に入ってからであり、だからこそ結末が予想できないし、逆に言えばそれまではどういうジャンルの物語なのかハッキリせずストレスを感じる読者も絶対にいる。