上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0人間の深奥に潜む暗い部分は恐ろしく、また悲しい。私を忘れないで下さい!
2019年9月29日に日本でレビュー済み
なにげない江戸町内の風景や商売の話から少しずつ物語の本筋に入るテクニックは、さすが宮部流。木綿の肌触り
を感じる筆使いで読者を引き込んでしまいます。参考文献の難しい言葉をそのまま用い、自分の知識を誇示している
かのような時代小説を見かけますが、本書は平易な言葉で述べられていて読みやすい。
その分、人間の感情や心の機微などをていねいに表現することに力点を置いているので、親しみを感じさせる作品
となっています。
人間の心の奥底にはそんなにも暗く醜く恐ろしいものが潜んでいるのか?と、ぞくりとさせる話や理屈抜きで気味
の悪い話などが五話収録。一番の圧巻は第五話。今までの四つの物語が、いつの間にか一点に収束して行く様は大き
な渦潮に呑まれて行くような恐怖を感じる。第五話のための序章だったのか、大きな伏線だったのか?じっくりと最
後まで一気に読めてしまう作品です。