カスタマーレビュー

2019年4月20日に日本でレビュー済み
7巻、8巻とネガティブめなレビューを書いてきて、なんかもう私はこの漫画の想定読者じゃないんだろうなーと思いながらも一縷の望みから新刊に手を出してみましたが…やはり印象は変わらずでした。というかむしろ悪くなってます。

一番大きな理由は、ありきたりな言い方ですが『キャラクターに感情移入できない』ということです。もう少し噛み砕いて言うなら、『キャラクターの心情が理解できない』でしょうか。では理解できないことが何故低評価に繋がるのかというと、そもそも感情移入のメリットとは『キャラクターの心情に自分の心情を重ね合わせ、その感動を共有/追体験できること』だと思っているのですが、理解ができない心情に自分を重ね合わせることはできないからです。
もちろん読み手である私はたかが1人の人間ですので、他人である全てのキャラの心情を理解することは土台無理なのは重々承知していますが、それを踏まえても理解できないことが多過ぎます。

何かこれだけだと抽象的な話だけで文句つけてるようで印象が悪いと思いますので、具体的なエピソードで説明したいと思います。※これ以降ネタバレ満載ですのでご注意ください

この巻に掲載された全国模試のエピソードが非常に象徴的でしたので、例にとって説明します。

まずこの話は、中野父が風太郎に再度退任を要求することからスタートします。その理由として中野父が述べた内容は、「学年1位の成績だったから家庭教師を依頼した。成績が落ちたので君はもう家庭教師に相応しくない」ということでした。家庭教師としての能力を図る上で自身の成績は目安程度にはなるでしょうが、本来は生徒である五つ子の成績で判断すべきだと思います。この時点でまず、少々理解に苦しむ主張です。『自分の勉強もままならないのに、他人の勉強を見ている場合じゃないだろう』という意見自体には一理あると思いますが、それならそもそも同級生に頼むなという話で。さらに中野父は代わりの家庭教師としてとある人物を連れてきますが、その人物は、

『風太郎に代わり新たに1位となった男子学生(もちろん、彼のこれまでの順位は風太郎よりも下)』

でした。家庭教師が負担となって学業が疎かになり、1位から転落したことを理由に退任を要求しておきながら、懲りずに学生を雇用しようとする…明らかに論理性を欠く提案です。今は一時的に風太郎より上かもしれませんが、任を解かれ勉強時間が復活した風太郎が再度1位に返り咲くことは目に見えていますし、武田自身も家庭教師に時間を取られ順位を下げる可能性は高いです。いたちごっこのように、その度に家庭教師を交代するのでしょうか?この点もまた理解困難です。

とは言えこれらの意見だけなら、『1位じゃないとか解放してあげようとかはあくまで口実で、とにかく風太郎を辞めさせたいんだろう』と解釈することはできます。できれば頭の良い(はずの)風太郎にそのあたりの欺瞞を突いて欲しかったですが…。でも本音を言えば、それが出来なかった理由も何となく推測できます。もし風太郎が武田起用の妥当性を問いかけた場合、もちろんそれで「それもそうだ」と中野父を帰らせる訳にはいきませんから、起用に値する何らかの根拠を武田に付与する必要があります。例えば、『家庭教師経験豊富』『誰々をどこそこに受からせた実績がある』とかですね。でもそれをした場合、その上を行くためには否が応でも風太郎を『家庭教師』という職業そのものに向き合わせる必要がありますし、彼がこれまで家庭教師としての技能向上のための努力を殆どして来なかったことが浮き彫りになってしまいます。穿った見方かもしれませんが、『家庭教師という職業について深く掘り下げて描くつもりはない』『一時的にでも風太郎の主人公としての格を下げる訳にはいかない』という作り手側の思惑を感じてしまいました。

で、それだけ強い気持ちで退任を要求して来ている中野父に対し、風太郎が言い放った言葉は…

「この仕事は俺にしか出来ない自負がある!」

カッコいい台詞ですが、果たして今この場で、この相手に言う言葉でしょうか?もちろん風太郎と五つ子の間に色々なすったもんだがあり絆が生まれているのは『読者には』分かっていますが、父親からしてみれば娘達を誑かして家を離れさせた元凶で、しかも付け加えて言うなら、そのせいで五つ子にはバイトという余計な負荷まで掛かっている状況です。「君が家庭教師をやった結果娘達は家から居なくなり、また娘達自身にも負担を掛けておきながら良く言えるね?」と逆に突っ込まれてもおかしくない訳で…。ことここに至っては「自負している」とかいう精神論じゃなく、そう言い切れる根拠を示し、中野父を説得もしくは許して貰えるようお願いするのが得策だと思うのですが。また、風太郎が口説いた訳ではないとは言え、教え子の一人から恋愛感情を抱かれていることを風太郎自身知ってしまっている状況でもあり…とにかく『よそ様の大切な子を預かっている』という意識が、風太郎に無さ過ぎるように感じてしまうんですよね。

それに対し中野父はというと、まあ激昂するようなこともなく淡々としたものです。激昂するようなキャラでもないですしそれはまあ良いでしょう。さらに風太郎は続けます。

「全国模試1位になってみせます!」

彼は本当に五つ子の家庭教師を、ひいては五つ子との絆を大切に思っているんでしょうか…?何でいきなりそんな無謀な目標を?いや、結果として無謀とまでは言えなかったのですが、事実1位は逃してますし。もし仮に、この時点であれだけの自信をもって1位を宣言することに根拠付けできるとしたら、風太郎が前回の全国模試で既に1位を取っている場合くらいですが、そんな描写はありませんし、またそうであれば中野父がそれを知らないのは不自然です。家庭教師にする人間の素性、特に能力の大きな目安となる全国模試の結果を調べていないということはまずないでしょう。
描写から察するに、風太郎が自分を奮い立たせるために敢えて高い目標を掲げた、というのが実情のようですが、自分だけじゃなく五つ子の成績のこともありますからね。これまでそれなりに頑張って来て校内1位すら維持できなかったのに、何故急に全国1位が取れると信じられたのか?頭が良いという風太郎の設定と、彼の計画性に欠ける行動がどうしても頭の中で結びつきません。五月は五月で「学年1位を取ります!」とか急に無謀なことを言い出しますし…この行動の意味も良く分かりませんでした。仮に五月が学年1位を取ったとして、風太郎が辞めさせられるのには変わりないのでは?

それはともかくとして、風太郎の宣言を受け、中野父は答えます。

「全国模試10位以内に入ったなら、家庭教師に相応しいと認めよう」

認めちゃうんですね…。中野父や武田が考える通り風太郎が家庭教師原因で自身の成績を落としてるとしたら、成績を上げるために真っ先に犠牲になるのは五つ子達でしょう。風太郎を辞めさせるために、五つ子を成績悪化の危険に晒すのは全く本末転倒です。何か父親すらも五つ子を大切に思ってるのか疑問に思えてきました。それと、この中野父の発言により風太郎が前回1位でない可能性はより高くなりました。仮に前回1位だったとすれば、2位以下の結果では成績低下に変わりありませんから。

とは言え全国模試10位以内という、恐らくはこれまでに無いレベルの高い目標を達成するためには、これまでと同じやり方ではまず通用しないでしょう。自身の勉強も、五つ子の指導もさらに効率的に行う必要があります。で、風太郎が実際に取った行動は…

『とにかく頑張る』

いやまあ、分かりますが、もう少し何かないものでしょうか。10位以内という明確な目標を達成するためには、それなりの計画性とか目標の定量化とかが要るような気がしますが。ガムシャラに勉強するだけで達成できるような、甘い目標ではないと思います。見えない所で色々やってるのかも知れませんが、その片鱗を少しだけでも見せてくれれば説得力も増すのですが…。あと、五つ子の指導も至っていつも通りの描写しかありません。ちょっと気になったんですが、まさか試験期間中もバイトして無いですよね?『バイト休んで勉強に集中する』ような描写がなかったように感じたのですが…(見落としだったらすみません)。仮に五つ子がバイトしながらだとしたら、達成難度がさらに上がってしまいます。

で、まあ何だかんだありながらも結局は自身の目標を達成、五つ子の成績も向上して中野父を認めさせる訳ですが、↑のような流れを見ていますので、申し訳ありませんがご都合主義に感じてしまいます。しかも、試験の最後でぶっ倒れてるんですよね?もちろん倒れた原因は腐った牛乳なので勉強だけが原因じゃないのですが、傍から、というか中野父から見れば無理が祟ったようにしか見えません。であれば、元々中野父が懸念していた「家庭教師が負担になっている」ということをまさに証明するような結果な訳ですが、中野父の反応は「見事だ」…。今後ずっと、ぶっ倒れながらでも家庭教師をやれと言うのでしょうか?

という感じで、読んでる間ずっと頭に『?』が浮かぶような状況でした。その他、一花の例の行動も当然ながら理解できず。幾ら彼女に自己中心的な面があったとは言え、あれだけ仲の良かった妹を影で陥れるような真似をするに足る積み重ねやきっかけがあったとは私には思えません。それに、仮に一時的には上手く行って風太郎と付き合えても、今後ずっと恋人と実の姉妹を騙し続けるなんてことが出来るはずがありません。思考能力がどっかいっちゃったんでしょうか?

レビュータイトルにも書きましたが、『物語が脳内で成立しない』というのが個人的にはしっくりきます。ただしこれはあくまでキャラクターを独立した人格として捉えた場合であって、作者に動かされてると認識してしまえば色々と辻褄は合います。実際、読んでるとどんどん繋がってくるんですよね。『この展開を描きたかったからこんな変な行動をさせたのか…』という感じで。前巻の五月の森なんかがまさにそれです。この巻で言えば、中野父が武田を連れてきた時に「何でそんなに同学年の学生に拘るんだろう?優秀で時間のある大学生とかで良くない?あと絶対に女性の方が良くない?」と不思議に思ったものですが、その後の展開を見るに『風太郎が倒せるレベル』『学校内で風太郎とやり取りができる』『勝負の後、風太郎の男友達ポジションになれる』等の条件を満たしている必要があったんだろうな、と。一花があんな極端な行動を取った理由も、次巻あたりで明らかになるんでしょう。

巻頭のキャラクター紹介は面白かったです。あと絵は相変わらず綺麗で五つ子の造形も可愛いです。とは言え本筋のストーリーは…頭空っぽにして読めば面白いのかもしれませんが、序盤の数巻で『これは真面目に向き合う価値のある作品だ』と判断してしまったが故に、どうしても最近の展開への違和感が拭い切れないんですよね。

こんだけ色々言っといてなんですが、あまり不満ばかり垂れ流すのも本意ではありませんので、この作品のレビューは一旦今巻で終了します。再び面白いと思えた時に、レビュー復帰したいと思います。願わくばまた。
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