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2021年5月22日に日本でレビュー済み
本5巻は主人公とそのパートナーが接吻を巡って逡巡・彷徨し続ける。こいつら飲み会の後でいきなり深い中になってしまったのではなかったかと、久しぶりに1巻を読み直すと、そうか服を脱いで同衾しただけだったかと改めて思い知った。そう考えると改めて相手が泥酔した状況下では一線を超えなかったパートナーの自己制御のレベルの高さに感心する。さらに性愛に関して奥手な主人公に触発されて、自らの過去の性愛に関して積極的だった経験を反省したりしている。これこそ、奥手なまま31歳となった主人公の視点に立って、非現実的なほどに好都合で理想的なパートナーの人物造形であり、本作品の要諦でもある。優しくて自己制御ができて仕事もできて、それでも金髪で「ちょっと不良」で「やんちゃ」なパートナー。こう並べると寒気がして「サルでも描ける漫画教室」相原コージ、竹熊健太郎の少女漫画の書き方の回を思い出した。あれら32年。32年分の進歩。
 このように性愛について奥手な主人公とそれに合わせるパートナーは掲載誌の正確にもあっているのだろうが、その主人公の描写はとても「フェミニン」だ。女性ホルモンの分泌量が生涯のピークに達する年代の女性をそれとして描いていて間隙がない。服の上からも皮下脂肪の蓄積がはちきれそうだ。この表現を同じ方向でさらに振ると女性をかたどった土偶に行き着く。このような描き方はシリーズの冒頭から一貫している。一話の扉絵とかがそうだ。さらに本5巻ではそのような女性性があふれ出すような主人公の身体そのものがテーマとして語られ、なんとなく圧巻であった。筆者はこのような主人公の外形の描写は男性読者の性的な欲望に応じるものかと思っていた。もちろん一方で「萌え絵」と呼ばれるような極端にディフォルメされた女性身体の表現があるが、筆者は「萌え絵」に萎えるので、そういう人向きかと思って来たのである。それ故、作者も男性だろうと思っていた。しかし本5巻ではパートナーの性別役割認識の表出に対して主人公がポリティカルコレクトなツッコミを入れる場面があって、しかもそこがとても堂に入っている。これは男性目線で都合よく理想化された人物造形ではあり得ない。そう考えてみると男性目線で理想化された女性像はミソジニーと表裏一体だ。そしてそれとは対照的に本作品における特に主人公の女性身体表現は自らの「女性性」への自負や矜持が伴っているようにも見える。昔教科書で読んだ、与謝野晶子の「みだれ髪」の短歌みたいな感じ。「その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな」。こっちは この子三十一 だけど、当時不倫の渦中だった晶子さんより、こっちの31歳がとても奥手なのはみなさんご承知の通り。こう書くと1900年代と2020年代の比較という話に逸れて入ってしまうが、筆者は当初、男性目線からも女性目線からのどちらからも都合よく理想化された人物造形への賛辞と、ひょっとして作者は女性なのかもしれない、あるいは両性の要望に答えているのかなどと言及し本稿を締める予定だったのだが、その点を含めてさらに思考が展開する可能性に触れたのかもしれない。そうして見ると星は5つだな。
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商品の詳細

5つ星のうち4.7
星5つ中の4.7
126 件のグローバル評価
星5つ
77%
星4つ
15%
星3つ
7%
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