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2021年2月26日に日本でレビュー済み
(本単行本の3巻には【未来編】が収録されています。)

【未来編】「宇宙生命(コスモゾーン)」論は一見の価値あるかも

朝日版で283ページ。本作品(「火の鳥」【未来編】)は、【復活編】の最後でロビタが猿田博士に拾われた約60年後のAD3404年から始まる。
本作品には火の鳥の正体の説明が含まれる他、AD3404年から始まった物語がそこからはるか何億年進み、なんと【黎明編】に戻って繰り返すという「火の鳥」全12編の"円環構造"も明らかになる。

本編で一番のキーワードとなるのが手塚治虫が創作した「宇宙生命(コスモゾーン)」という概念と言葉だ。以下引用。

火の鳥「私は(地球の)分身なんです」「わたしは地球のからだの一部なのですよ…動ける細胞みたいなもの」
火の鳥「星はみんな生きているのですわ。もちろん生きているといったって あなたがたの考えている生きものとは異質なものです。これは宇宙生命(コスモゾーン)なのですわ」「太陽も生きものですし 銀河の中の星々はみんなそうですの」

火の鳥「わたしのからだには宇宙生命(コスモゾーン)がもう何倍も何十倍もはいっています。あなたもそれに加わるんです。さあいらっしゃいマサト。わたしの中に飛びこんで!!」「どう?マサト これがみんな私のからだの中の宇宙生命(コスモゾーン)たちよ あなたを歓迎しているのよ」
タマミ「タマミよ おぼえていて?ムーピーのタマミよ」
マサト「タマミ!! 思い出した きみか きみも宇宙生命(コスモゾーン)になっていたのか!?」
ー マサトとタマミだった二つの宇宙生命(コスモゾーン)は一つに合わさった。そして何十億もの宇宙生命たちの中へすいこまれていくのだった

宇宙生命(コスモゾーン)についてはインターネットで調べていて見つけた「心に残る家族葬」というWebサイトの説明が面白かった。曰く、「宗教・スピリチュアリティにおける死後の行方を大きく分類すると、『他界』型と『転生』型の二つに分けられると思われる。さらに第3のタイプとして『コスモゾーン』型(がある)」と。
このように「死後の行方について第3のタイプを提唱した」と捉えると本作品は凄い。

しかし、このコスモゾーンという凄いアイデアを使ってどのようなストーリーを描いているかと言うと…以下引用。

火の鳥「宇宙生命(コスモゾーン)もあなたがたのように病気になります」「そして…地球も病気になったのです。かかりはじめは一千年ほど前でした。…この病気の兆候はすぐ地球の上にあらわれてきました。動物はどんどん滅び去っていき…人間たちの進歩もぱったり止まりました」
火の鳥「地球は死んではなりません『生き』なければならないのです」「人間を生みだして進化させたのにその進化のしかたがまちがっていたようです」「人間をいちど無にかえして生みなおさなければならないのです」
ー 生物が滅びてまた現れて進化して栄えて滅びた…火の鳥の目の前で何度繰り返されたことだろう…そして何度目かの人間が今また同じ道を歩もうとしている
火の鳥「ここではどうしてどの生物も間違った方向へ進化してしまうのだろう」
ー 「でも 今度こそ」と火の鳥は思う。「今度こそ信じたい」「今度の人類こそきっとどこかで間違いに気がついて…」「生命を正しく使ってくれるようになるだろう」と…

…ダメだこりゃ。俯瞰視点から「人類は愚かだ…」と言ったってそこには何の感動もありゃしない。読者の心を動かすための物語としては完全に失敗している。
大体、死後の世界がなんであろうと生きている人間がするべき事は「今、この時」を精一杯生きる事で変わりがないし、自分のなすべき事を精一杯やっている人は「人類は愚かだ…」と他人事について嘆いたりしない。
大宇宙から見てひとりの人間の人生がいかにちっぽけで無意味であろうとも、私はそういうちっぽけな人生の輝きを描いた物語を読みたい。

なお、角川書店版の巻末解説は、幸福の科学の信者だった影山民生さんが書いている。
「人間も、その他のあらゆる生命体も、実は転生輪廻というシステムにより永遠の命、肉体を離れた後も意識として生きつづけ、また次なる肉体に宿ることによって、次なる三次元的生活を繰り返していく存在であることを、手塚先生は明快に主張しているのである。これはまさに、菩薩以上の悟りであり、手塚先生は、それをハッキリと知っておられたということになる。」
死後の世界の科学的根拠がない話に「ハッキリと知っていた」という表現が出てくるところが非常にいい味を出していて好きだ笑。
あと、「地球もその他の惑星、恒星も、そしてそれを包括している宇宙も、それぞれに生命体としての存在であり…」このような考え方を「ガイア理論」と一般に呼ぶ事もこの解説で学ばせてもらった。この解説は必読である。

【「火の鳥」全12編レビュー】

手塚治虫の「火の鳥」全12編を一気に読んで全作品のレビューを書きました。
★1〜★5で評価した結果はこうなりました。

★5:(該当なし)
★4:【鳳凰編】【太陽編】
★3:【ヤマト編】【異形編】【未来編】【宇宙編】
★2:【羽衣編】【黎明編】【乱世編】
★1:【復活編】【生命編】【望郷編】

一般に高く評価されている「火の鳥」ですが、バイアスなしで個々の作品として評価した場合、本当にそこまで高く評価されるべき作品でしょうか?手塚治虫が漫画界のレジェンドである事、また「火の鳥」が生命というテーマを扱っている事、これらが合わさってこの作品が神聖視され、「この作品は素晴らしいはずだ」という強いバイアスが世の中に醸成されているように感じます。

私はこのレビューを書くにあたり「火の鳥」全12編を2回以上通読しましたが、忖度抜きで言うとはっきり言って「火の鳥」はつまらないです。

純粋に作品として「読むに値する」水準に達していたのは【鳳凰編】【太陽編】で、★4をつけました。
漫画の神・手塚治虫の代表作「火の鳥」を教養として知っておくことの価値を付加してやっと「読んでもいいかな」と思えるのが【ヤマト編】【異形編】【未来編】【宇宙編】で、★3をつけました。
これら以外の6編は★2と★1です。

「火の鳥」という作品では「生命とは何か」というテーマで大上段の俯瞰視点から人間を見下ろすようなシーンがよく出てきます。
【望郷編】や【未来編】で「どうしていつも人類は間違ってしまうのでしょう」というシーン。
【鳳凰編】や【乱世編】で説かれる輪廻転生の話。
【未来編】で説かれるガイア理論(人間も地球という大きな生命体の一部という見方)の話。
しかしどれも、「今、ここ」を生きる人には関係ありません。ひとりの人間には人類全体の性質をどうこうすることはできないし、輪廻転生やガイア理論があろうがなかろうが今の自分の人生を一生懸命生きるだけ。そして人の心を動かすのはいつも「今、ここ」を生きる一人称の物語です。
つまり「火の鳥」という作品のテーマ自体が、心を動かす物語に水を差すような性質を持っていると言えます。もっと言えば、生命讃歌を表現しようとするあまり人間という存在のもっとも尊い部分を見失ってしまっています。

また、「火の鳥」はプロット・設定・人物像が現代の漫画のように緻密に練られていません。「火の鳥」単行本化の際や単行本の改版の際に多量の加筆・修正が入っているのはプロットが十分に練られていない事の証左ですし、人物像の作り込みは、現代の良くできた漫画が緻密に描かれたデッサンとするなら「火の鳥」は棒人間の絵くらいの差があります。
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