カスタマーレビュー

2011年12月15日に日本でレビュー済み
星野之宣には初期作品(たとえば『巨人たちの伝説』『2001夜物語』)の頃から、「科学的にでたらめなアイデアを説得力ある画で描く」残念な漫画家という印象を持っている。
たとえば『2001夜物語』の「レーダー電波の電子」という名台詞などは、今なお語り草になっているほどだ。
そうした「残念」なところは、この作品においても相変わらず健在である。
1巻のブラックホール兵器とか、この2巻冒頭の「月のない地球」をめぐる科学者たちの議論などの、星野氏オリジナルの要素にそれが強く出ているのは、もはや芸風と呼ぶべき域に達している。

他のレビューで高く評価されている、この過去の地球の姿の議論は、おそらくニール・F・カミンズの『もしも月がなかったら』から借用したものと思われるが、ホーガンの原作のアイデアと組み合わせるのは、はっきり言って無茶である。
月が潮汐力によって地球の自転を減速させ、同時に月が地球から遠ざかっていることは百年以上前から知られており、一日の長さの変化も精密に測定されている(サンゴの化石から、過去の一日の長さの変化もわかっている)。たった5万年で自転周期が8時間から24時間に延びるというアイデアは、少なくとも地球においては成立しえない。
ホーガンの原作自体、そうした矛盾を承知の上で、わざとアイデアの問題点を書かずに避けて通った気配すらあるのに、それをわざわざ物語の表舞台に引っ張り出して、しかも全体の見せ場にしてしまったこの漫画にはまさに、「残念!」と言うしかない。
(『もしも月がなかったら』のように架空の惑星の話にすれば、説得力を損なうことなく作品にできたのに……)

もちろんフィクションが科学的に厳密でなければならないなどと言うつもりは毛頭ない。星野之宣自身、「科学的に間違っていても物語として面白い方をとる」と発言したことがある。科学的な間違いを承知の上で、フィクションとして楽しむという立場は当然あっていい。
しかし、このアイデアを「説得力がある」とか「ありえた過去」と評価するレビューが現にある以上、「間違ってるよ」と指摘する者が一人くらいいてもいいと思ったので、あえて野暮なツッコミを入れさせてもらった次第である。

しかし、なんだかんだ言っても、私はこの漫画家を愛している。それは創作全体を通して、SFというジャンルに対するリスペクトがあるからだ。
デザイン全般や宇宙の描き方から見える、『2001年宇宙の旅』への愛、多くの作品にみられる過去の名作SFのオマージュ、それらはこの作品にもはっきりと表れている。たとえば第9話のタイトル「狂風世界」とか、73〜74ページに描かれたシーンがそうだ。
(クロマニヨン人が月に矢を放つ画から木星に向かう宇宙船の画につなぐ場面は、『2001年宇宙の旅』の、ヒトザルが放り投げた骨のカットから宇宙船のカットにつなぐシーンのオマージュである)

それになんといっても、カラーの絵が素晴らしい。口絵の木星を背景にしたガニメデもいいし、ひろげたカバー絵は美術館に展示してもおかしくないと思えるほどの出来栄えだ。

星野之宣にはこれからも本格的SF漫画を描き続けていってほしい。
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5つ星のうち4.6
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