カスタマーレビュー

2020年12月27日に日本でレビュー済み
女性漫画家が描くファンタジーものの多くは、キャラクターの線が細く、アクションが軽く、世界にも物語にも現実感が希薄に感じられる。
少し古くなるが、朝霧夕の「ミッドナイトパンサー」やクランプの「聖伝」、高河ゆんの「ゲシュタルト」、渡瀬悠宇の「ふしぎ遊戯」等々、作風に違いはあってもこの印象に差はあまり無い。(荒川弘の「鋼の錬金術師」を除く)
本作もその系譜を引き継いでいるように見える。キャラクターは細くトーンも少ない、武術的な体捌きに重力は感じられず、幽霊や竜が出てくる物語に現実感はあまり感じられない。
こうした特徴は女性漫画家の欠点と捉えられがちだけど(そして人間の感情の機微を描くことに長けている長所がそれを補っていると捉えられがちだけど)、私はそうは思わない。
少なくとも、ことファンタジー作品を描くにあたって、全体的な重力の弱さ、存在の希薄さは、強みだ。
本作を読んでいると、リアルタイムで行われているものを目の当たりにしているというより、いつかの時代、どこかの国であった出来事を伝承や叙事詩や寝物語で語り聞かせられているような気持ちになる。彼女たちの漫画の存在感の希薄さは、物語の登場人物が語り聞かせによって想像力で作り上げられた存在感の希薄さに通底する。子供心に想像で作り上げた世界に重力は存在せず、逆に幽霊や竜が人物たちと同様の存在感を持って実在する、それと同じことだ。
この作品の滑り出しは、辺境の王子が幽霊に恋し、幽霊がこの恋に触れて人間の心を取り戻し、そのために幽霊が封じていた竜の封印が弱まり、王子がその竜を封印するために旅立つ、というもの。外形上の出来事としては心躍る冒険が主軸だが、精神世界では悲恋の喪失感、人知外のものへの畏怖心が常に側にあって、これらのギャップの取り合わせが美しく、物語の構成としてしっかりしている。竜などを含む登場人物のセリフも、含意と寓意、ほのめかしとはぐらかし、象徴と予兆に満ちていて、古典のファンタジーを読んだ時のような消化は難しいけれど時間をかけて理解すると栄養価が高いものになっていると思う。そして、この世界観の美しさを損ねないように絵を付けていると感じる。

目指すものが御伽噺なのだ。
ファンタジー漫画と言っても、例えば対極にある三浦建太郎の「ベルセルク」はやはり魔法や怪物が出てくるもののあれが目指すのは現実に起こっていることを正確に記述しようとする当代の歴史家の努力であり、本作は吟遊詩人の詩、曾祖母から祖母、祖母から母、母から娘に伝わる御伽噺なのだ。
両作を読み比べてみると良い、どちらもこれからの展開がどうなるのかが気になるだろう。
しかし、本作の気になり方にはどこか境界線を隔てた遠い世界、遠い昔のことだと自分が知っているような儚さを伴っているだろう。
そして、既に終わってしまった物語の未来を追い求める自分は、この世から喪われた幽霊に恋した主人公と容易に重なることだろう。

本作を読んでの読後感と近いなと思ったのは、他のファンタジー漫画よりも寧ろ小野不由美の「十二国記」や上橋菜穂子の「精霊の守り人」だった。
久しぶりに子供に語り聞かせたい物語に触れることが出来たことを喜んでいる。
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5つ星のうち4.7
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