カスタマーレビュー

2021年3月4日に日本でレビュー済み
平和な都市オメラスのどこかにあるその部屋には錠のおりた扉が一つあるだけ、窓はない。閉じ込められた子供がぽつんと坐っている。
この子供がつまりはデンジだ。
彼の孤独で悲惨な幼少期は、まるでオメラスに囚われ不幸を一身に背負わされた子供のようで、私はずっとデンジの事が気掛かりだった。彼のような少年が主人公に選ばれた意味をいつも考えていた。

デンジが記憶と共に扉の内側に立て籠り思考を放棄していたのも、マキマから受けた仕打ちのせいだけではなく彼のこれまでの人生を思えば当然だ。
しかしマキマから身を隠すために岸辺に連れて行かれた窓のない(!)狭く暗い部屋で、やはりオメラスの子供であるところのコベニが膝を抱えて小さく蹲り「ヤな事がない人生なんて………夢の中だけでしょ……」と諦念を述べる姿に、デンジは初めて自らを相対化出来たのだった。
正直に欲望を叫ぶデンジのシーンにはこの作品が描きだそうとした全ての問いに対する答えが詰まっている。クライマックスと呼ぶに相応しい。

問題はその後だ。
こんな展開ってない。ヒロインは悪であるところの敵役で、彼女を許すどころか愛と執着まで告白するヒーローとは一体。
まあでも別にそれで良い。むしろこうでなくちゃあならない。これでこそ「チェンソーマン」だ。デンジのやって来た事は間違いでなかった。バカで健気でチョロくて優しいデンジ。ずっとずっとデンジの事が気掛かりだった。
デンジは遂にその部屋を出て、成り行きではなく自らの意思でチェンソーマンになる事を選び取った。

「チェンソーマン」は新しいヒーロー像を示してみせた。我らが時代のヒーローは文字通り清濁合わせて飲み下し、そして残らず背負って行く。ポチタもアキもパワーもニャーコもマキマもマキマの犬たちも支配の悪魔も全部。
どう仕様もない人間の弱さを、そして強さと尊さを描いてみせた。粗削りだが小気味良い。これで全て良いと思わせる希望に満ちている。
これは、新しい神話のような物語だ。

岸辺をして一番デビルハンターに向いていると言わしめたデンジの活躍を、デンジのチェンソーがエンジンを吹かすブウンという音を、私はこれからも楽しみにしている。
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