カスタマーレビュー

2017年7月15日に日本でレビュー済み
モンスターと人間が入り混じって暮らす街を舞台に活躍する人間の青年医師の物語・第三幕。
毎度診察・治療のシーンの度に何やら妖しげな雰囲気になり「これは医療行為だ、これは医療行為だ」と
自分に言い聞かせながら読まなきゃならない作風に「けしからん。いいぞ、もっとやれ」と色々期待しつつ拝読。

物語はラーミアの薬師サーフェが風邪をひいた冬が過ぎ迎えた春、メロウ水路街の改装落成式典への招待状が
主人公の青年医師・グレンの下に届く場面から始まる。

迎えた式典の日、議会の代表であるスカディ・ドラーゲンフェルトの護衛を務めるフレッシュゴーレム・苦無に
出迎えを受けるグレンたちだったが、肝心のスカディはスピーチの舞台である大橋に向かうも尻尾が垂れ下がり
どうにも元気がない様子。普段からヴェールで顔を覆い、表情が窺い知れないスカディの不調を尻尾から察するグレンだったが、
その判断の正しさはスピーチが重要な部分に差し掛かった瞬間、倒れ伏したスカディの急変によって裏付けられる事に。

スカディと旧知の仲であり、中央病院の院長を務めるグレンの師匠にしてスキュラのクトゥリフが主治医である事から
スカディの容体を確認するべく師を訪ねたグレンとサーフェだったが、グレンを猫可愛がりしサーフェの妬心を煽るなど
のらくらと追究を躱すクトゥリフがやっと教えてくれたスカディの容体は非常に稀有な症例で「奇病」と呼ぶべき状態らしい。
「奇病」は心臓に絡むものでありスカディの命を脅かすものらしいが、最大の障害はスカディ自身にまったく治療するという
意思が見られない事だとクトゥリフは明かす。

その数日後、手出しのし様がなくやきもきするグレンの下を訪ねてきたスカディの護衛・苦無は主の意思に反しても
治療を受けさせてくれないかとグレンに頼み込んでくる。苦無の手引きで議会の中にあるスカディの寝所に潜入したグレンだったが
衣服を脱ぎ捨てたスカディの肋骨の上で青く輝き心臓の様に脈打つ腫瘍を目にする事に。

心臓が二つある様な状態で執務を続けてきたスカディの竜族としての生命力の強さを思い知らされるグレンだったが、
スカディは「これは私の業」として手術を拒否する構えを解かず…

折口良乃は電撃文庫で発表した「シスターサキュバスは懺悔しない」シリーズもそうだけど
モン娘が本当に好きなんだなあ、と改めて思い知らされた。
そしてその「好きなものを書いている」という作者の精神状態の良さがキャラクターの活き活きとした動きに
非常によく反映されている、とも感じた。
とにかくこの三巻、全ての登場人物がまるで目の前に立っているかの様に素晴らしい存在感を放っている。

物語の方は過去の二巻がどちらかと言えば各エピソードが独立した様な連作短編的色彩の強い物だったのに対し、
シリーズの舞台であるリンドブルムの議会の代表で竜族の少女・スカディの肉体を蝕む腫瘍と
その治療を「私の業」だからと拒絶するスカディの姿勢に苦悩する主治医にして主人公の師・クトゥリフ、
腫瘍の外科的な治療に臨もうとする若き医師・グレン、そしてその手術の為に必要な技術や道具を提供する為に動く
様々な種族のモン娘たちの力が結集されていく姿を追っている。

新しいモン娘の登場回数はそれほど多くなく、グレンの姉弟子的存在であるサーフェや前巻で登場した
蜘蛛型魔族であるアラクネのアラーニャなど、既出のキャラクターの更なる掘り下げが中心となっているのだけど、
その掘り下げによって既存のキャラクターのこれまで描かれなかった別の顔が描かれる事で「キャラクター」に重層性が生まれ、
より人間臭く(モン娘にこういう表現を使う事が妥当かどうかは別として)、複雑な人格を持った登場人物として
キャラ造形を深化させている。

特にサーフェやケンタウロスが営む運送会社の令嬢・ティサリア、アラーニャが「女子会」を開く三話は
通常の三人称から一人称に表現方法を変え、モン娘視点で語られるのだけど、普段はグレンを巡ってぎくしゃくしている
三人娘が互いをどう思っているかという部分に焦点を当てているのが非常に興味深い。
物語中で一人称という表現法を利用したちょっとした「仕掛け」が施されているのだけど、普段は語られる事のない
「内面」が描かれる事で彼女たちが仮面の下に隠した本音や、それが露呈した上で描かれる女同士の本音の関係の描写は
「ファンタジー系の作品でここまで人間関係の深い所を語るのか」と驚かされた。

モン娘たちの人間臭さ(改めて変な表現だとは思うが)は二話のグレンがスカディの手術に必要な道具の作成を依頼した
サイクロプスたちの工房で働く職人たちの「矜持」にもよく表れている。
特にやたらと自虐的で卑屈な性格の工房の紅一点・メメが倒れるまで依頼された品の作成に打ち込んだ姿を通じて
「人の命を奪う道具ではなく、人の命を救う道具を作る事で胸を張って生きたい」というサイクロプスたちの悲願ともいえる
自分たちの技術を誇りたいという想いを描いた部分は「職人の魂」の表現としてライトノベルの枠を超えている。

…今回割と真面目な話なので「けしからん部分」は冒頭のサーフェの口内炎の治療や、寝所でのスカディの触診、
おっちょこちょいなメメが工房の道具で巻き起こすストリップもどきと割と抑え目(普段に比べれば、という話です)
終盤で描かれたスカディのロリキャラっぷりなんかはもう「あざといなあ」以外の言葉が思いつかない。
そういう意味で折口良乃は読者の期待を裏切らないw

キャラクターの掘り下げ、登場人物の持つ顔の重層化という点で作者のキャラ造形能力の高さを徹底的に見せ付けたこの巻、
「好きな物を書く事でここまで筆は活き活きと踊るのか」と改めて作家というのは書いてる作品によって本当に化けるんだなあと
驚嘆させられた。このノリに乗った状態で折口良乃という作家がどれだけキャラ造形能力を見せ付けてくれるのか、本当に楽しみである。
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商品の詳細

5つ星のうち4.5
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