カスタマーレビュー

2019年8月4日に日本でレビュー済み
 前巻の後半に続き、敵サイドに焦点を当て続けた1冊である。
 少年漫画の、それもヒーローを題材にした作品において敵サイドを(ともすればヒーロー側以上の熱量で)描き続けることに賛否はあるだろう。そしてそれは当然作者も承知の上であろうことが作者のコメント等にも窺える。それでも作者はここに筆を割くことを譲らなかった。
 作中の順番とは前後するが、作者にとっても作品においても、まずもって死柄木弔の描写は避けて通れないだろう。23巻の巻末で述べられていた通り、死柄木弔(志村転弧)は作者の2007年のデビュー作『テンコ』の主人公・テンコが原型となっているキャラクターであり、ついに明かされようとしているその過去も、『テンコ』を色濃く残している。作品の原型となった読み切り『僕のヒーロー』が生まれるよりももっと以前に、作者が漫画を通して描こうとしたテーマの一つが、とうとう集大成である『僕のヒーローアカデミア』においても語られる時がきたのだ。前述の通り、敵の描写はどうあっても賛否両論を免れえず、特にアンケート重視のジャンプ連載においては、タイミングを誤れば打ち切りとなる危険まではらんでいる。作品が連載5周年を迎え、多くの読者の支持を得て、ようやくかつて主人公として描いたテンコを転弧という姿で描くに至ったのだ。一人の漫画家の並々ならぬ努力と執念の、一つの結実だろう。
 さてその描写だが、弔の過去は次巻に跨がっているためまだ詳述は避けるとして、これは単なる「敵の過去話」ではない。紛れもなくヒーロー社会の側面の描写でもある。何しろOFA7代目継承者・志村菜奈の、“ヒーローとしては”決して間違いではなかったはずの選択こそが、死柄木弔を生みだしてしまった一つの要因であったのだから。当然、OFA9代目継承者・緑谷出久にとっても他人事ではない。継承者でない者にとっても、ヒーローを志す以上、これは決して他人事ではないのだ。
 またこの巻、特にトガ・トゥワイスにもスポットが当たっている。非常に印象的なのが、トガVSキュリオスの決着だ。トガの“普通”は、我々の考える“普通”とはほど遠い。しかし、トガにとってはどうにも“普通”に生きることなのだ。ここで対峙していたのが主人公たちであったならば、作品の性質上、また少年漫画の都合上、彼女の“普通”をどうあっても否定しなければならなかったことだろう。言葉によってか、あるいはトガが敗北し、主人公側が勝利するという結果で。しかし今回は敵VS敵。物語はトガに勝利を与え、敗したキュリオスの最期も清々しいほどにトガの言葉に満足気であった。“普通に生きて普通に死ぬの”というトガの思いを、我々はどう受け止めれば良いのだろうか。
 トゥワイスもヒーロー不在のこの巻において、ヒーローと見紛うほどの熱い台詞と活躍をみせる。自分に居場所をくれた仲間を想い涙し、仲間のために命をはるトゥワイスを敵ながら「格好いい」と素直に思ってしまう、この気持ちは止めようがない。敵なのに…、などという理屈以前に心は正直だ。
 前巻のレビューでも述べたが、この作品を通して「ヒーローとは何か」を考えるのが好きな一読者である。ただどうしても、ヒーローVS敵となると、ヒーロー側に理があるものとして話が進んでしまうような、読者が自分で考えなくとも答えがいくらかは提示されてしまっているような、そんな部分がある。それが今回、敵VS敵がじっくり描かれたことによって、いよいよどちらに理があるのかがわからないままに読み進める面白さと読み応えを感じられた。そして不思議なことに、ヒーロー不在であるにも関わらず、双方の敵の主張を通して「ではヒーローはどうあるべきなのか」「主人公たちはこれにどう答えを出していくのだろうか」という疑問が絶えず浮かんだ巻でもあった。既に何度か読み返しているが、この先この戦いにどのように決着がつき、どのようにヒーロー側とつながっていくのか、考える楽しみが尽きない巻である。
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