カスタマーレビュー

2020年9月1日に日本でレビュー済み
言わずと知れた名作中の名作で、こんなにも昔の漫画が、ここまでの表現力を見せていたことに、ただ驚くばかりです。

しかし、表現の見事さと、その内容や思想は別物です。自分は作者の考えにどこか偏りや独断があるように思えました。(以下ネタバレあり)

まず、科学について。作者は自然と技術とを混同しています。コンピュータが感情を剥き出しにしたり、ロボットが人に同情したりするのは、科学者であれば滑稽に見えるでしょう。手術がどうしても上手くいかないとか、少女ロボットがきちんと喋らない、とは技術の問題で、それは試行錯誤が解決することです。人の力を超えた大河の流れが、技術に干渉するような描写は不可解に思えます。

宇宙生命というコンセプトも、かなり怪しげな印象を受けます。大宇宙と小宇宙がほぼ無限に続き、その全体が一つの生命である、というのはユニークな発想ですが、それは生命の定義を超えています。生命とは、環境に依存し、限られた時間性の中を、有限に生きるものです。ではその宇宙は何に依存しているのか、独立した、崇高な脱有限存在を持ち出せば、もう生命とは呼べない。仕方なく超生命という言葉が出てくる。しかしそれはあまりにも想像力の飛躍です。不死の体とか(有限宇宙には不可能)、なのに老いは発生する、挙げ句に体が朽ちたのに「存在」している、というのは、あまりにも現実の物理法則や生命の定義を無視し過ぎです。厳しい言い方をすれば、「妄想」の産物と言えるでしょう。

実際、マサトに課せられた役割も不明瞭で、別に彼がいなくても長い年月の進化の過程で生物は生まれた気がします。ナメクジの文明は面白く、そこから人類もサルの進化でしかない、と、より自由な相対性の見方に行くのかと思えば、やはり「人類」の出現と美徳を願うという、煮え切らなさを感じます。

恐らく、作者は人類に絶望しながらも(二つの世界大戦後と迫り来る核の脅威の時代には、誰もが絶望していた)、人間中心主義(ホーキング博士などの言う、宇宙は人間のために生まれた、とする説)に傾倒した、日本の伝統的な自然崇拝を持つ人に思えます。思想は人の自由で、それはいいのですが、あたかも自分の思想が唯一の真理だと言わんばかりの演出は、どこか鼻につく気がしなくもないです。

その証拠に、世界や運命はダイナミックに進んでいくのに、そこに生きる「人」はただ翻弄されるだけです。神を否定するなら、いかに人が自分の知恵と努力で物事を切り開くのかが出てきてもよさそうなのに(作者が新人賞を授けた荒木飛呂彦氏の作品のように)、やはり人を超えた大河の流ればかりが描かれ、火の鳥(これは恐らく作者の精神)がただすべてを傍観する、という流れに、なんとなく作者の決めつけや傲慢を感じるのは自分だけでしょうか。

マサトは古代人を馬鹿にしますが、その内的な心象風景は現代人よりも豊富だったかもしれないのです。ただ後の時代に生まれ、科学を知っているからというだけで、彼らを見下すのは、あまりに限定的、即物的な視点でしょう。火の鳥はたぶん一羽ではない、自由な心の数だけあるということが、この一神教的な物語には欠けている気がします。

色々書きましたが、ここまでの感性の深さや想像力の豊かさを漫画で示した功績は不動のものでしょう。ただ、これをすべての世界と思い込み、自分で考える力を失ってしまう人が出てこないことを祈りたいです。宇宙の広大さや、人の心の深さは、ここでの世界観や運命論をまだまだ打ち破れる、それを誰かに見せてほしい、- もしかしたら、そんな隠された願いがあったのかもしれません。
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