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2019年7月16日に日本でレビュー済み
 ちょっと大袈裟な言い方になるかも知れませんが、わが国のコミックの現在があるについて萩尾望都の貢献には絶大なものがあったと考えます。それまで小説や戯曲でしか扱われなかったようなテーマをコミック、それも少女マンガに持ち込んだのです。しかもコミックの特性を最大限に利用しました。コミックでは小説や戯曲ではなかなか許されないような荒唐無稽が許されますよね。その点を最大限に利用した訳です。比べる相手が少し変といわれるかも知れませんが、近松門左衛門が浄瑠璃の脚本しかついに書かなかったのはこの点にあったといわれています。つまり人形浄瑠璃では人間が実際に演じる芝居とはちがった荒唐無稽が許されるという点が譲れなかったのだというのです。

 ただ単にロマンチックな話を書いたり、怪奇な話を書くのではなく、その背後に「人生とは何か」とか「愛とは何か」といった主題を潜ませたコミックがその後わが国では書かれるようになります。わが国のコミックが世界的に人気が出た理由を派手で面白いキャラクターを創造することに成功したことなどに求めるのは間違いで、コミックとして充分楽しめる物語展開の裏にそうしたシリアスな問いが隠されている、そうした奥の深さが本当の人気の秘密なのではないかと思うのです(もちろん全部が全部そうだとはいいませんが)。

 さて、それで今回の作品ですが、どなたかも書いていらっしゃいましたが、昔読んだ『ポーの一族』とは別の物語になってしまっているように感じられました。絵の感じや登場人物のキャラクター、物語全体の雰囲気が全然別のものになっています。何故この書評を上記のような小難しい理屈から始めたかというと、今回の『新・ポーの一族』にはそういう深みが全然感じられないからです。時代があちこちに飛んで混乱させられるのですが、こうした技法にもあまり必然性が感じられませんでした。

 40年経って、またこの作品に手を付けようとするについては著者には何か考えがあるのだとは思いますが、ちょっと失礼な言い方になることをお許しいただいて申せば、『ポーの一族』は「エディス」のラストエピソードで謎に包まれたまま終わった方がよかったのではないかと思われてなりません。
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