かつて世界ヘビー級王座に君臨したジョージ・フォアマンについて、文壇最強の男(?)と云われた立原正秋は、文壇最弱の男(笑)吉行淳之介の
「あのくらい強いと、どんな気持ちなんだろうねぇ」
との疑問に
「それはもう、自分が怖いんじゃないでしょうか」
と応えていたのである。
確かに全盛のフォアマンは、'68メキシコシティ五輪金メダリストからプロ入りし、無敗のまま同じく'64東京五輪金メダリストから王座に無敗で登り詰め、'60ローマ五輪金メダリストでもあったモハメド・アリに初黒星を付けたジョー・フレージャーに挑戦し、まるで赤子の手をひねるように、または残酷極まりない屠殺のように3度の痛烈なノックダウンを与え、2ラウンドTKOでタイトルを奪取したのである。
その後もアリの顎を砕いたケン・ノートンを一蹴するなど圧倒的な強さを見せつけていたのだが、あの伝説的な「キンシャサの奇跡」でアリの軍門に降ったのだった。
本作を最初に読んだ時、真っ先に思い浮かべたのはこのフォアマンのエピソードである。強過ぎる男の栄光と悲惨を十全に表現したボクシングコミックスの極北と称するに何の躊躇いも無い。
現実のフォアマンは一敗地に塗れ王座を追われた後、魂の彷徨を経て神を見出し、やがて20年の歳月を経て王座に返り咲いたが、敗れることを喪失してしまった五島雅は何処へと向かうのだろうか。これぞまたとない悲劇か…。
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ZERO（ゼロ）
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