【ベスト・クラシック特集】クラシックを聴いてみませんか

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胸にしみる美しい曲 疲れた心を癒してくれる曲

どこかで耳にした懐かしい曲 あなたにぴったりの曲がきっと見つかります

2008年11月19日 全100タイトル同時発売 税込価格¥1,860(2枚組¥2,520)

ルビジウム・クロック・カッティング

イメージ・キャラクター 宮本笑里



ベスト・クラシック

宮澤淳一が語るグレン・グールドの魅力

ソニー・ミュージックでは、この年末に「グレン・グールドの世界」と題して不世出のピアニストの全貌を捉えた3つのアイテムをリリースする。2枚組のベスト盤「グレン・グールド坂本龍一セレクション」、オリジナル・ジャケット仕様による「グレン・グールド バッハ全集」、そして初のDVD化となる映像集成「ザ・グレン・グールド・コレクション」だ。これらの企画すべてに監修・解説で関わるのが、音楽評論家で、日本のグールド研究の第一人者、宮澤淳一氏(青山学院大学総合文化政策学部准教授)。氏にグレン・グールドの魅力について、初心者にもわかるように語ってもらった。

今年は5月にNHK教育テレビの教養番組「知るを楽しむ」で『グレン・グールド 鍵盤のエクスタシー』(全4回)が放映され、大きな話題となりました。クラシック・ファンでない人もグレン・グールドの存在を知るようになり、CDの売り上げも活況を呈したようです。あの番組で案内役をなさった宮澤さんは、どのようなメッセージをこめて出演したのですか?

私は趣味の押し売りは嫌いなので、特定のメッセージはないかもしれません(笑)。とにかく、「グレン・グールド」という奇蹟のような芸術家がいたことを知ってほしいという点に尽きます。その生涯と仕事(演奏など)については、好き嫌いも賛否両論があり、それは健全なことだと思います。認めるか認めないかは受け手の自由だけれども、その状況の有り様すべてを、これまでグールドについて知らなかった人、あるいは敬遠してきた人にもわかっておいてほしい、という思いでしょうか。

グールドとはどういう人物だったのですか?

音楽事典的な説明をするならば、演奏会活動(生演奏)を否定し、電子メディア(レコーディングなど)の可能性を追求したピアニストです。1932年にカナダのトロントで生まれ、天才ピアニストとして注目を集め、米国やヨーロッパでも客演し、評判を高めていたのに、活動の絶頂の1964年(32歳)で本当にコンサートをやめてしまった。以後、1982年に50歳で亡くなるまで、トロントにとどまり、レコーディングやテレビ・ラジオ番組の出演のみを演奏の機会と活動し続けた。

そこにグールドの魅力があるのですか?

確かに魅力の一部かもしれません。「聴衆に迎合せず、彼らとの交流を拒否した孤高の演奏家」像はかっこいいですからね。また、グールドは多弁で、音楽とメディアをめぐってたくさんの文章やインタヴューを残していています。才気煥発でおもしろく、それも魅力の一部でしょう(『グレン・グールド著作集』『グレン・グールド発言集』など)。でもグールドの魅力の中核にあるのは、やはり、録音や映像に残された演奏です。世界中のグールド・ファンは、グールドを通してしか得られない音楽体験があることを知っているのです。

それは具体的にはどんな演奏なのですか?

抒情的であったり、躍動感に満ちていたり、挑発的であったり、といったことが要素として挙げられるでしょう。それがほかのどのピアニストのものとも違う。こればかりは説明不可能。聴いてみないとわかりませんよ(笑)。「抒情的」の代表作とすれば、ブラームスの間奏曲集でしょうか。「躍動感」という意味では、定評のあるバッハ演奏の数々です。特に《インヴェンションとシンフォニア》で発揮される爽快なテンポとリズムは比類のないものです。「挑発的」な演奏としては、モーツァルトのピアノ・ソナタ集が最も過激です。モーツァルト本人が聴いたら怒るのではないかと思うほど、楽譜の指定を無視した極端なテンポ(速すぎたり遅すぎたり)やアーティキュレーション(節回し)で演奏しています。聴き手は、グールドの演奏が導くさまざまな「驚き」をどのように消化するかが問われるのです。

グールドといえば《ゴールドベルク変奏曲》が代名詞のように語られますが、それはなぜですか?

米国でメジャー・デビューをした最初のアルバム(1955年録音)が《ゴールドベルク変奏曲》で、それが清冽な名演として生前から評価が高かったことがひとつ。加えて生前最後に発売されたアルバム(1981年)が、なんと再録音した《ゴールドベルク変奏曲》で、しかもこれがデビュー盤とはまた違った解釈の名演だったことが“グールド=ゴールドベルク”の等式を生み出してしまいました。《ゴールドベルク変奏曲》の演奏にはほかにもたくさんすぐれた録音がありますが、グールドの2枚の演奏は、新しい録音がでるたびに常に比較の対象となる伝説的な名盤なのです。

グールドを未体験の人のためのファーストステップとしては、何を聴いたらいいですか?

グールドに限らず、感動的な音楽体験は偶然の「出会い」から始まりますから、推薦盤を挙げるのは少しはばかられます。それでもソニーのベスト・クラシック100 に入っているアルバムは、値段も良心的ですし、どれも入門として悪くないでしょう。たとえば、さまざまな作曲家に対するグールドの解釈をひととおり堪能できるという意味では「イマージュ」は洒落たアルバムですね。(2008年10月31日・談)