| J・K・ローリングの『The Tales of Beedle the Bard(吟遊詩人ビードルの物語)』を目にし、手に取り、読む経験をどう表現していいのかわからない。なので、ここはひとつ、「ワオ!」という言葉で始めたい。この本の存在そのものが、魔法のようなもの(小説から生み出された工芸品だ)。この世に7冊しかなくて、どのお話も未発表のもので、しかもJ・K・ローリング自身が手書きして、イラストまで加えているのだから(最初の数ページを見たたけで、彼女に絵の才能もあるのがわかる)。
ローリングの筆跡は、大好きな親戚のおばさんの見慣れた走り書きのよう。読みにくくはないけれど、注意して文字を追う必要がありそうだ。だから、ゆっくりと時間をかけて、次にくる文字にひめられたミステリーを味わえることになる。
だから、開くのさえ嬉しくなる素晴らしい本の書評なんか、書けるはずがない そう、ただページをめくり、物語に身をゆだねればいいのだ。イソップ寓話のようにテーマがいつまでも心に残るシンプルなお話に、ただひたればいい。ローリングの文字のへこみやカーブを目で追い、この本をユニークなものにしている細かなディテール、つまり文字のインクの色が少し濃くなったり、文章がページからはみ出しそうになったりしているのを楽しめばいい。どうせうまく表現できないのだから、丸ごと受け入れて、生き生きと心に焼きつかせよう。こう考えながら、最初の物語から取りかかろう。 (ダフニ・ダーハム/Amazon.com ブックス マネージングエディター)
1. "The Wizard and the Hopping Pot (魔法使いとポンポン飛ぶポット)" [注意、ネタバレあり!]
『ハリー・ポッター』シリーズのように、一番目のおとぎ話『The Wizard and the Hopping Pot』の最初のページの上には、絵が飾られている。丸い鍋から驚くほど上手に描かれた1本の足が生えている絵だ(気になる人がいると思うので、指が5本ついていることを書いておく)。この物語は楽しさいっぱいで始まる。冒頭にちらっと顔を出す「やさしい老いた魔法使い」は、懐かしいダンブルドア校長を思いださせ、私たちははっと息をのむ。 この「誰からも愛される男」は、たいていは隣人のために魔法を使い、自分が「幸運な料理鍋」と呼ぶ鍋で薬や解毒剤を作っている。ところがこの心優しくて寛大な男は、出てくるとすぐに死んでしまい(「かなりの年月」を生きた末にだ)、全財産が一人息子に残される。
運の悪いことに、息子は父親と正反対(マルフォイそっくり)。父親が死んでから鍋を見つけた息子は、その内部に(ひどくふしぎなことに)スリッパ1つと、「息子よ、これを必要としないですむよう心から願う」と書かれた父親のメモがあるのに気がつく。大半のおとぎ話と同じように、この瞬間から物事は悪いほうへと転がりだす……。
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2. "The Fountain of Fair Fortune (たくさんの宝の泉)" [注意、ネタバレあり!]
私たちがとても気に入りそうなこのお話の初めに描かれているのは、ほとばしる水がきらめく噴水だ。この本を読みはじめてから、もう30ページ目。ローリングが星やキラキラを描くのを楽しんでいることはよくわかった(ひどく巧みなことも)。ほとんどの物語の最初と最後には、「妖精の粉」がまき散らされている(ピーター・パン風だ。ローリングの妖精は、こんなにきれいな「尾」をひかないことをファンは知っている)。 この物語の最初のページの下には、バラの茂みもある。仕上がりはとっても美しく、バラの絵で苦労したことのある人には、ローリングがインクの染みなどを隠すために、ただバラを描いたのではないのはお見通しだ(こうした方法をとる人もいる)。物語を始めるにはいかにも華やかで、「幸運の噴水」というタイトルにもふさわしい。そのせいか、この物語はとても重々しい雰囲気とともに始まる。舞台も、「強い魔法」によって守られている魅惑的な閉ざされた庭園という、おとぎ話にぴったりのみずみずしくてミステリアスな場所だ。
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3. "The Warlock's Hairy Heart (魔法戦士の毛だらけ心臓)" [注意、ネタバレあり!]
読者のみなさん、ご用心を。ローリングはグリム童話のように、この3番目のお話をとってもダークに仕立てている。『魔法戦士の毛だらけ心臓』には笑いや冒険の旅はなく、魔法戦士の心の深い闇にただ入り込んでいく。最初の怖いページには「妖精の粉」は見えず、そのかわりにザラザラした毛に覆われた血のしたたる心臓の絵がある(弁などがついた実際の心臓を描くのはやさしいことではないが、ローリングはここでも気味の悪い毛を含めて、リアルに再現している)。 文章の下は、てっぺんに3つの輪のついた昔風の鍵が血だまりに落ちている絵だ。これを見ただけで、ほかとは違う物語が始まることがわかる。そのことを、ここでちゃんとお断りしておく……。
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4. "Babbitty Rabbitty and her Cackling Stump (ぺちゃくちゃウサちゃんとぺちゃくちゃ切り株)" [注意、ネタバレあり!]
ローリングの4番目で最も長いこのお話の前には、大きな木の切り株が描かれている(年輪は20個だ)。根元から5本の触手のような根が広がっていて、その下から草やタンポポの綿毛坊主が生えている。切り株の真ん中には暗い割れ目があって、読者を見つめる小さな目のような白い輪が2つ。文章の下には小さな動物の足跡だ(指は4本)。この前の物語に出てくる血みどろで毛むくじゃらの心臓ほどは恐ろしくはないが(しかも最初のページには、きれいな「妖精の粉」がまき散らされている)、この切り株にも不気味な雰囲気がある。
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5. "The Tale of the Three Brothers (三人兄弟の物語)"
この本の最後を飾る『三人兄弟の物語』を一気に読んだ人は、すぐにまた読みたいと思ったはず(イソップ寓話の傑作に匹敵すると思うから)。ラッキーなことに『ハリー・ポッターと死の秘宝』の21章を開ければ、いつでも好きなときに読めるのだ。ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズの最終巻をまだ読んでいない人は(これから先に、なんという楽しみが待っているのだろう)、この書評を今は読みたいとは思わないだろう。まずは、本に出てくる物語を読んでみたら? そのほうがいいかもしれない。
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