カスタマーレビュー

2012年6月20日
 ジェイン・ジェイコブズは一介の主婦である、と言われているらしいが、そんな訳がない。権力を持たない側の人間であることは間違いないが、彼女ほど行動力があって、問題の根本を追求し、その解決ための立案や調査を惜しまず、時には狡猾ともいえる方法で目的に向けて突き進む人物はそういないだろう。
タイトル自体にに対立構造が盛り込まれているように、本書は一般人ジェイコブズが権力者モーゼスの政策に異を唱え立ち向かっていく物語でもある。
一般人であるところの彼女が時の権力者に勝利した要因は果たしてどのようなものだったのだろうか。

 このストーリーの敵役であるところのモーゼスは1950年代にニューヨークで市の都市計画をほぼ一手に担っていた人物である。橋や高速道路、インフラなどいわゆる大規模開発を巧みな政治手腕で次々と実現していく姿が描かれている。荒廃した都市を整然とした姿に変えていく手法はニューヨークを再生させる最善の方法であると考えられていた。そして主人公ジェイコブズは建築や都市を専門とする一介ののジャーナリストであった。彼女はモーゼスが近代化を推し進めるニューヨークにあって、既にその鋭い観察眼から良い都市には混合用途や雑多な界隈などの、一見無秩序に見える多様性が必要であることを感じ取っていた。共にニューヨークを良くしようとする二人の登場人物は、既に最初の段階で全く異なるベクトルを持っていたという。
 両者はワシントンスクエアパーク、グリニッジヴィレッジ、マンハッタンエクスプレスなどのプロジェクトにおいて数度対立することになるが、ジェイコブズは「一般市民の団結がトップダウン式の決定に屈しない」という政治決定を実現することで勝利を収めている。ジェイコブズの名著「アメリカ大都市の死と生」がそのような経験のもとに誕生したという経緯が描かれている点も興味深い。

 本書はタイトルのような勧善懲悪の物語に仕上がっている感はあるが、現在では訳者あとがきにもあるように長期的視点に立った社会インフラの必要性からモーゼスの働きを再評価する動きもあるという。モーゼスが現在のニューヨークの骨格を築き生活の基盤を引き上げたことは事実であり、ジェイコブズ的な手法だけでは都市インフラそのものの寿命に対応できないことも予想されるのである。この新たな整備や開発を求めざるを得ないことがアメリカという国家の限界を示しているようにも思える。しかし、もしも第2のモーゼスとジェイコブズが奇しくも同時に出現することがあるとすれば、今度は手を取り合って開発だけでも保全だけでもない新たなパラダイムで世界を率いる日が来るのかもしれない。

 「開発か保全」という2つしか選択肢がないと思い込みがちな日本の都市計画の閉塞感に亀裂を入れる一冊としてぜひ一読をお勧めしたい。
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