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カスタマーレビュー

2019年4月13日
 スペイン現代史にさほど詳しいわけではない。ヘミングウェイや逢坂剛の作品を齧った以外、あまり勉強していないのが実情である。それゆえ、スペインの作家がスペインの現代史を題材に書き上げたネイティブなこの作品には惹かれるものがある。しかも、フランコ没後、独裁制から民主化に移行したこの国にとっては大転換となるこの時期である。本作は、平和というものの産みの苦しみの中で様々な陰謀とそれに絡め取られていった人々の重厚、かつ壮大なノワールとも言える力作なのである。

 多くの登場人物が現れる。また多くの過去の複数時点を語る物語でもある。複雑に絡み合った人間たちの愛憎模様と、彼らの離合集散が生み出す化学反応は、時に繊細、時に大胆であり、一見わかりにくく読み辛いとの印象を与えるかもしれないが、実際には緊迫の一ページ一ページに気持ちが集中してゆくうちに、いつの間にか一気読みさせられている自分に気づく。

 目を覆うばかりの暴力描写は、趣向と言うより、むしろ作家の目から自国の歴史を振り返って見て獲得したリアリズムだろう。民主化してなお、実際に起こった一部軍人たちによる革命未遂事件を題材に、そこに至るスペイン史のうねりの中で、個人たちが彼らの熱情や復讐、欲望と非情と、善悪入り乱れる争闘を繰り広げる展開が続く。よって、登場人物は多いのだが、語り口の巧さが混乱を避けたストーリー理解に導いてくれるので、安心して頂いてよいだろう。

 そして、一人一人の登場人物の個性の強さも、本作の読みやすさに繋がっている。女性弁護士マリアと彼女の父、元夫。囚人で元刑事のセサルと彼の父。セサルの元同僚のマルチャン。異常者で残酷な殺人者のラモネダ。戦中に暗殺されたイサベラ。その夫であり秘密警察所属のロレンソ。そして残された二人の兄弟(兄はドイツ義勇隊としてロシア戦線へ。弟は精神を病み施設へ)。一族の秘書であり戦略家でもあるプブリオ。さらに、事件に巻き込まれ、運命に揉まれ、生死を分かってゆく彼らの周囲の人々。どの人物も複雑だが有機的に関わり合い、縦糸と横糸となって分厚いタペストリーを紡いでゆく物語の素材となってゆく。

 1981年2月23日の革命未遂事件は「23-F事件」と呼ばれているらしい。Fは二月を表わす。日本の二・二六事件は戦争の始動を暗示するものであったが、スペインの23-F事件は最早戦争は終わったのだと改めて象徴されるような事件であった。しかしその裏での駆け引きも含め暗黒史的闘争があっただろうことは、この作品を通して十分に伺い知ることができる。

 物語の時制は、現在がこの23-F事件の前後である1981年。しかし、物語はファシズム台頭する1940年代に始まり、戦争を利用しつつ弾圧や独裁化に向けて、国家的野望が不穏分子を国中にばら撒いた時代に移行する。イサベルの暗殺が起こり、一家が離散し、殺人者や目撃者が仕立て上げられ、世界が秘密というベールに被われて、現在の平和という表皮に隠蔽されてゆく時代に。

 それらのすべてを暴き葬るかのように、著者ビクトル・デル・アルボルのペンは、この世で最も強い武器となる。各新人賞を獲り、この後もロシア戦線収容所の真実を暴き出す作品等、骨太の創作を続けているらしい。何よりもカタルーニャ自治州警察に20年間在籍していた現場実績を持つ作家という視点を持つことにも注目したい。

 最後に本書の原題は"La Tristeza Del Samurai"(サムライの悲しみ)である。作中に重要な道具として存在する日本刀の名である。日本人は、この作品には一人も登場しないが、人間の魂を込めた精神性のシンボルとしてこの日本刀が非常に印象的に使われている点に、是非ご注目頂きたい。バルセロナやピレネーなどスペインの国土の美しさともども、過酷な生と死の物語に、より深みを与えていることがわかると思う。
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