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2014年5月6日
プロスポーツ選手や卓越的な音楽家を見ると、「こういった人たちは生まれつきすぐれた能力を授かったんだ」と思いたがる。
しかし、本当に天才というのは遺伝で決まってしまうものなのだろうか。
本書は、そういった「遺伝還元論」を批判するとともに、環境がどのように「天才の誕生」にかかわっているかを、例を豊富にわかりやすく説明してくれる。

「生まれか育ちか」という二項対立はよく耳にするものである。
しかし、この問い自体が実は問題なのだ。
この問いは、さも「遺伝要因」と「環境要因」がきれいに分離可能で、そして実際の結果はその足し算で生まれるものであるかのように語られる。
だが実際には、遺伝と環境というのは相互作用しあう形で実際の状況は決まってくる。

最初に、迷路を解くのが遺伝的に得意なはずのラットと苦手なはずのラットの研究が紹介される。
普通の環境では、確かに遺伝的に優位なラットが好成績を残すが、豊かな環境ではどちらも近い好成績に、悪い環境ではどちらも同じぐらいの低い成績になったという。
また、単語記憶の実験から、記憶力について「努力で伸ばしようのある部分」と「原理的に限界がある部分」があることを指摘する。
記憶をしたいならば愚直な練習よりも「どのような方法で記憶するか」が重要だというのはなるほどと思った。

また、モーツァルトなどの神童とされた天才も、幼少期から驚異的な訓練を受けていること、神童とされる子は「同年代の子と比べてずば抜けた能力を発揮する」けど、それは技術を早く習得しているだけで大人と比較したらやはり勝てないのであり、そのため神童が大人になってあまり花開かないことも多いと指摘する。
ジャマイカやケニアのアスリートは足が速いイメージが強いが、これも黒人が遺伝的に足が速いというより、幼少期からよく走る環境にあることと厳しい訓練をよしとする文化的要因が大きいとする(この点は人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか (中公新書)でも指摘があった)。

本書は、その約半分が注釈で占められており、さまざまなデータや文献が紹介されている。
本編はお話調で読みやすいが、詳しく情報を知りたくなったら注釈を読めばいいという構造だ。

本書は「遺伝還元論」への批判というスタンスで書かれているためか、遺伝に関する話は手薄である。
遺伝ー環境相互作用ならば、もう少し遺伝側の仕組みも知りたいと思ったが、それは他の本を読む必要があるようである。
その意味で中立な立場から書いた本という感じではないが、しかし遺伝決定論への解毒剤という点ではよいだろうし、非常に読みやすく書かれている。
なかなかおススメできる一冊。
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