カスタマーレビュー

2017年6月27日に日本でレビュー済み
 この孫子正解シリーズも第十五回となった。
 今回は特殊的用兵の「火攻」を通して、第二篇「作戦」において説かれた「拙速」と「戦いて強を益す」ことの重要性を再説するとともに、本篇後半においてそれが求められる根本原理としての孫子の戦争観、用兵思想を再確認させることで、第一篇「計」の巻頭言である「兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり」と呼応し、あたかも頭と尾が有機的に連動する常山の蛇のごとく、全篇にこの孫子の戦争観と用兵思想が貫ぬかれていることを我々に示しているのである。
 この「火攻」は古今東西の戦争で用いられており、先の大戦で東京をはじめとするほとんどの都市が空襲で焦土と化し、また広島、長崎が原子爆弾に因って一瞬のうちに壊滅状態になるといった経験をしたわれわれ日本人も心から痛感するところであり、さらには今まさに脅威となっている北朝鮮のミサイルによる威嚇も、この「火攻」の一形態といってもよいかもしれない。
 戦争にこれら「火攻」が多く用いられるのは、著者が指摘している通り、相手に与えるダメージが甚大であるため、その効果に即効性があるためであり、まさにこれは第二篇「作戦」に説かれている「拙速」であるといえる。一方、この火攻と対比させられている「水攻」は、地形の助けが必要なことはもちろんのこと、成功させるためには堤防を起こし、堰を作り、またそれを守備するために多くの兵力を要するなど、勝利が明確になるまで相当の努力と時間を要する作戦であり、その意味で「拙速」とは逆の「巧久」であるといえる。孫子があえて「水攻」を取り上げてまで、「火攻」と対比させたのは、まさに「火攻」が示すところの「拙速」を強調したいがためであり、それは本篇の後半部分の総結言である孫子の戦争観、用兵思想の根幹をなすものであるからである。
 前篇を引き継ぎ、後半の総結言で孫子が強調するのは、戦争は確かに政治的目的を達成する一手段ではあるが、老子の言を借りれば「兵は不祥の器」、つまり戦争は多くの人が死に、物が破壊され、場合によっては自らの滅亡を招く恐れがあることから、極力これを使わずに政治的目的を達成すべきであるということである。しかしん状況によって最悪戦争を遂行せざるを得ない場合には、調略、謀略、詭道を駆使するなど極力損害を少なくする努力が必要であるとし、そして自らの政治的目的を達成できたならば、いちはやく矛を収めて兵を引くこと、つまり前半で強調された「拙速」を強く求めているのである。これこそがまさに第一篇「計」の巻頭言である「兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり」であり、孫子は兵書の巻頭言と、用兵篇の最後とを呼応させることで、孫子の戦争観、用兵思想の徹底を図っているのである。
 そして孫子は最後に「察せざる可からざるなり」はいったい誰がするのかを鋭く突き付けている。つまり、戦争を行うも回避するも、ひとえに君主そして将、つまりリーダーにかかっており、リーダーが冷静な情勢判断のもと、孫子の戦争観、用兵思想に照らし合わせて、最善の結論を出すことを求めている。そしてそのアンチテーゼとして、怒りという人間にとって厄介かつ、根源的な感情によって戦争を行うという、多くのリーダーが陥る過ちを強く戒めることで、君主と将の在り方を強調しているのである。
 以上を鑑みるに、つまるところ国が亡ぶのも栄えるのも、結局は上に立つ人間にかかっているのであるということを、孫子は全篇を通じて説いているのであり、孫子兵法がリーダーの書であるといわれる所以である。その孫子兵法を「脳力開発」という別の視点を通して現代的にやさしく噛み砕いて説明しているこの孫子正解シリーズは、孫子兵法の神髄を学びたいと望む人にとってはまさにうってつけの書籍であるといえる。
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