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2016年12月16日に日本でレビュー済み
ペロポネソス戦争は、BC431年から27年間という長きにわたってギリシア全土を混乱の巷となしたアテーナイ人とペロポネソス人との戦争で、アテーナイの敗北で終っている。この戦いの経過を記録したトゥーキュディデースの『戦史』は、すべての事件を総花的に書かず、自分の構想をささえるのに必要と判断したもののみを書きとどめている。「戦いという好ましからざる人間の行為は何を前提としているのか、戦いを余儀なくさせる人間の文明とは何を前提としているのか、何を基に何を目的に生じうるのか、どのように違った条件のもとに異なる形態をとりうるのか」と、自らに問いながら書かれている。トゥーキュディデースはこう語る。

“私の記録から伝説的な要素が除かれているために、これを読んで面白いと思う人はすくないかもしれない。しかしながら、やがて今後展開する歴史も、人間性のみちびくところふたたびかっての如き、つまりそれと相似た過程を辿るのではないか、と思う人々がふりかえって過去の真相を見極めようとするとき、私の歴史に価値をみとめてくれれば充分であろう”

『戦史』には事実が時間の経過に沿って淡々と記述されている中に、大小の演説が40回以上も含まれている。これらの演説の多くは作者の創作によるのだが、作者が真実と信ずるものに根ざしているので、リアルで臨場感がある。これらの演説を聞くと、当時のギリシアのリーダーたちの見識の高さに驚いてしまう。あれから2000年以上も経った今の日本の国会での与野党のやりとりが低俗に思えてしかたがない。本当に人間って、進歩したのだろうか?ペロポネソス戦争が勃発する前、ペロポネソス同盟の諸国が集まって対策を協議したとき、ラケダイモーンの王アルキダーモスが発言した内容の一部を紹介する。

“・・・アテナーイ人の昂然たる気質としては、土地のために己れの自由を売ったり、無経験な兵士のように戦いにおびえたりすることは、まずありえない・・・かれらを絶望に追いやり手におえない狂人に変えることは心して避けねばならぬ・・・戦いの勝負には、槍と盾よりも、武器を役立たせる資金がなくてはならぬ・・・人がわれわれを必要以上の危機に行かせるために賛辞をあびせ激励しても、おだてにのって現実を見誤ることはない。またわれわれを非難し怒りを煽ろうとする者があっても、そのために怒りを制しきれず口車にのることもない。われわれはよく己を持するゆえによき戦士、よき判断の主たりうる。なぜなら、戦場の勇気は廉恥をもととし、廉恥は克己をもととする。またわれわれがよき判断の主たりうるのは、法を犯す知恵をあたえず法にそむかぬわきまえを克己によって培う教育による・・・われわれはつねに、敵もすぐれた作戦を抱いていると想定し、実践の準備を怠らない。また敵の失策を待って味方の有利をえようとはせず、わが計画の万全を期すべきである。人間が人間である以上、もとより素質において敵味方に大差はない。しかし厳格無比の克己訓練で鍛えられたものこそ最後の勝利者たることを疑わない・・・”
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