カスタマーレビュー

2024年3月12日に日本でレビュー済み
この漫画は、漫画家を題材にした職業漫画で、主人公は元編集者なのですが、場面ごとに視点が切り替わる群像劇のような作りになってます。
作者の松本大洋さんは、若い頃にピンポンやゼロなどのエネルギッシュで個性豊かな作風として評価を受けてきました。それぞれの作品の題材は、スポーツや青春物などの他の漫画でも取り扱っているようなものなのに、内容は、ストーリーが面白くて、この作者にしか思いつかないような設定や表現が盛り込まれていて、とても面白かったのを覚えています。この作者にはハズレはなく、どれも個性があって魅力的です。
 でも、この絵柄や若さや勢いに身を任せていた作りだとどうしても、粗さや読者との間に溝ができてしまい、サブカル漫画として見られて、ジョジョのように一部の漫画好きにしか評価を得られてないイメージがありました。
 ですが、松本大洋はこの作者は作品の引き出しがバラエティ豊富で、出てくる度々違った印象を受けるすごい作家です。ピンポンでは熱血青春漫画、最近のサニーでは家族愛や孤独との対立などの前作とは異なった内容を次々と出してくれて、どんな人でも好きな作品がきっと見つかると思います。(絵柄が苦手な人もいるかもしれませんが)
 脱線しましたが、今作の東京ヒゴロは、退職した編集者が再び漫画雑誌を作るという内容で、漫画というよりも純文学を見ている感覚が近かったです。主人公の塩澤は、持ち物全てに名前を書く程、真面目で不器用な人です。仕事でも、性格から真摯に行い、漫画家の要望にも本気で聞く耳立て親身に接してくれるとても優しい人です。
ここまでは一人の人間だけのフォーカスしましたが、この漫画では各登場人物がこの主人公と同じくらいに現実的な人でありながらも、個性があり、心情を丁寧に描いてくれているので、作品に奥行きを感じさせてくれます。私は1巻にも登場する嵐山先生が特に好きです。彼の人生観と漫画に対する気持ちは心に来るところがあります。
 他の職業漫画では、現実の社会生活を描こうとしてもどうしても、漫画を面白くするために過剰な演出や現実に存在しそうにない人物が度々出てきてしまいがちです。この漫画でも天才や優秀な人、強い心を持つ人はいますが、自分たちが共感するような生い立ちや心の繊細さがあり、自分たち読者にも共感できる部分があります。職業は漫画家でも、人の人生そのものを共感できる形で描かれています。
人生の経験を積んだ作家の心情に寄り添った作品は現実感があり、読み手の心にも伝わってくる、理解できる雰囲気?があります。そして、それはとてもいいものです。まだ読んでない人はぜひ楽しんでください。
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