カスタマーレビュー

2020年3月31日に日本でレビュー済み
甲賀忍者と伊賀忍者の最も優れた各十人が雌雄を決するというメインストーリーがただ単に展開していくだけの物語。

横軸として甲賀の男と伊賀の女のカップルの「ロミオとジュリエット」的な要素があるが、二人のバックボーンがまったく説明されないし、争いにほとんど関係して来ないので興味の引くものになっていなくて残念です。
引き裂かれる運命ならば、それがいかほど重大で、読者に愛おしさを感じさせるものとして描写するかが「フリ」として不可欠だったと思います。
ここがはっきり本編に存在しません。

徳川家の三代目を決めるという政争に関しても、特に物語上、重要な位置を示してないので蛇足に感じてしまう。
物語に直接関係して来ないのであれば冒頭で長々やる必要は皆無だと思います。
それより誰の何の話かをもっと明確にする必要があったはずです。

政争によって敵味方に分かれざるを得ない二人の悲恋として物語を構成するのであれば、時代に翻弄されつつも恋に心を燃やす普遍的なお話として感情移入することも可能だったと思うのですが、ひたすら荒唐無稽な魔法のような忍者同士の殺し殺されを淡々と見せられるに終始していて誰にも想いを寄せられず不満でした。
また忍者同士の異形の戦いを主軸に置くのであれば、彼らがどのような環境で、どのような意志を持ってそれらを研鑽し、発揮していくかを描くことがエンタメとして必須だったと思われます。

歴史的、地理的なリアリズムにおいては、甲賀、伊賀の藩は今で言う三重県にあり、そこから東京の間というかなり広い範囲に渡って攻防が描かれているはずなのですが、その辺の市中くらいの範囲で闘いが行われていると錯覚するくらい背景の描写が薄くて、国家のあり方を決定する戦いには到底見えませんでした。もう少し甲賀や伊賀の藩領がどの程度の規模感なのかや、それぞれの因縁、雌雄が決した後の世界線の変遷、さらに細かくいえば戦いが行われる街道や山中がそれぞれどう趣が違うのか描写すべきだと感じました。はっきり言って代わり映えしなくて退屈です。建物内や水場、山中、追撃、逃亡戦、篭城戦などいくらでも見せ場を作れたと思います。

また、戦闘描写においては何が起こっているのかわかりずらい箇所があまりに多かったです。
作中の魔術のような、仕掛けのまったくわからない(説明されもしない)忍術が、一体どのように展開されてどのような効果を発揮されたのかが一見して腑に落ちないので何度も読み直してしまいました。
二十人いる精鋭の忍者たちが、並みの者達に対してどれほど実力差があるのか、などのケレン味溢れるフリを効かせるエピソードなどをもっともっとはさんでも良かったと思います。
倒される相手がどの程度の強さなのかわからないのでカタルシスや危機を脱出した安堵感などがまるで表現されておりません。

それからキャラクターが一気に出てくる割には描き分けができておらず、そして特定の誰かに感情移入させるような構成にもなっていないので非常に読みづらかったです。
横山光輝先生の三国志もそういったきらいはありましたが、章ごとに誰が主人公か明確に示されていたのでそこまで混乱しませんでしたが、この作品においては色々なキャラクターをほとんど同時に描写するために大混乱してしまいます。髪の色を変えるなり、敵味方で明確にコスチュームを分けるなり、覚えやすい名前にするなり、キャラが存在する場所を読者に特定させるなり(同じような造りの屋敷や森、山が多すぎます)色々な方法があったはずです。
(もっと言えば、例えば政争を有利に進めようとするキャラ、ひたすら頭目に忠誠を誓うキャラ、野心家、裏切りを画策するキャラetcもっとバリエーションが作れたはずです)

絵に関しても、一見クォリティが高いように思わせられますが、その実、そのコマにおける文成分(何を読者に読み取らせたいか)を満たしていないものが多かったり、そもそも背景が写真を加工して間を埋めただけのような形になっていたり、一枚絵で「おおっ」と思わせられるものがなかったりと、表紙で期待するようなものはあまり見受けられませんでした。
あまり意味のない大ゴマも多いです。
これはヒキやオチといった読者が満足する脚本上の展開を用意できない作者に多く見られる傾向です。

全5巻なので、買って凄く後悔するか、というほどでもありませんが、値段的な期待に沿うようなものでも無いと思います。

せめて心に残るようなキャラクターが一人でも居れば印象も違ったかなという感想です。
ご購入の参考になれば幸いです。
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