カスタマーレビュー

2017年12月4日に日本でレビュー済み
遅まきながら映画版の方を見て感銘を受け、その補完用のために購入しました。
(映画版では出てこない細かいエピソードが存在することを、こちらのレビュー等で知りましたので)
映画の世界観がより鮮明となり、非常に良かったと思います。

戦時体制に移行してからの我が国の一般国民の暮らしがどのようなものであったのかをただひたすらに淡々と描き出したのが本作の肝。
これは、これまでのこうした傾向のエンタメ作品(はだしのゲンや火垂るの墓とか)にはあまりなかったものであると思い、個人的には極めて新鮮に感じられました。

そういう意味では、例えば戦前を、とにかく軍部が抑圧的に支配する暗黒社会であったと規定したい人たち(主に左翼系の人々)にとってはかなり物足りないものになっているであろうし、鬼畜米英反米愛国を盲信したり、国体に対する偏愛思想を有する方々(主に右翼系の人々)にとっては噴飯ものの作品になっているのだろうなと想像できます。

ただ、本書(および映画)は、そいったイデオロギー的な面を徹底して排した構成・物語が緻密に構築されており、とにもかくにも一般国民の「リアル」というものに、徹底的に拘って作り上げられた作品となっていて、ここは頭の中を真っ白にして向き合わないと前述したような的外れな感覚に陥ってしまうことになってしまうとは、思いました。
・・・著者の思想的背景がどうなのか、僕自身知る由もないのですが、こと本作に関しては左右どちらかの意思が注入されているという風には、個人的には全く感じさせられませんでした(「ゲン」や「火垂る」には明らかに特定の思想が埋め込まれていましたよね)。

そういう意味では、著者が作品の舞台を呉の、しかもその「片隅」に選定したのは全くもって絶妙の選択であったと言わざるを得ません。
これがもし空爆の主目的であった呉の都市部であったなら、あるいはもっと離れた農村部であったなら、物語は全然違ったものになっていたでしょう。

でも、当時の日本人は、その全てが直接空爆を受ける状況下に置かれていた訳でもなく、平凡な日常を淡々と過ごしていた方々も多数おられたわけであり、戦争に向き合う立場や思いも千差万別であったはずなのです。
そこの部分をこそ、本作は戦時を実体験していない我々に追体験させてくれるという、極めて稀有な作品になったと僕自身は感じています。
・・・で、そうした作品を、勿論戦後生まれで自分とほぼ同世代の著者が、膨大な資料や取材によって描き上げられたという点に、非常に深いリスペクトを感じさせられずにはいられません。

・・・そして、そうした世界の中、活き活きと躍動する実にチャーミングなキャラクターたちの存在を、僕らは愛さずにはいられなくなるのです。
そのポジティブな生き様に、魅了されずにはいられなくなるのです。
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5つ星のうち4.7
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