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2016年7月3日に日本でレビュー済み
トゥーキュディデースの「戦史」が歴史上なした功績は、歴史事件の遠因と近因(最も真なる原因と、世に伝え広められた原因)の二つの視点で歴史を記したことである。

ペロポネーソス戦争の原因は、ペルシャ戦争後アテーナイ人が海軍力を背景にギリシア各地を広く支配下に従えていくのを見て、ラケダイモーン人(スパルタ)を中心とする周辺諸国がこれ以上の拡大を恐れたためとされる。

トゥーキュディデースは、イタリア・シケリアに向かう沿岸航路の要の地として栄えるエピダムノス(現在のアルバニア、ドゥラス市)における貴族派と平民派の抗争が、ケルキューラとコリントスの紛争に発展し、さらにアテーナイとラケダイモーンを中心とするペロポネーソス同盟との戦争につながる様を描く。(上巻)

本書の根底には、「海を制したアテーナイがギリシアを制しえなかったのは何故か」との著者の問いがある。

スパルタで行ったアテーナイ人の演説からは、ペルシアに勝ち経済的・軍事的に大国となったアテーナイの驕りがにじみ出ている。

「一旦ゆだねられた覇権をうけとり、名誉心、恐怖心、利得心という何よりも強い動機のとりこになったわれらは、手にしたものを絶対に放すまいとしているにすぎない。」
「強者が弱者を従えるのは古来世のつね、けっしてわれらがその先例を設けたわけではない。」
「われらはこの地位にふさわしいものたることを自負している。」
「正義を説くのもよかろう。だが力によって獲得できる獲物が現れたとき、正邪の区別にかかわらず侵略を控える人間などあろうはずがない。」

他国の議会でこのようなことを正々堂々と言われた時、人は黙って従うことができるのか。アテーナイが覇権を握ることに対する危機感と反発がいかに強かったか。

トゥーキュディデースは、真実とは行動的事実(出来事)だけをもって成り立っているのではなく、「言葉」にあらわれた知性の営み(政見演説)と行動的事実の両面から捕捉されると考える。行動的事実と政見演説とをはっきりと対置させおのおのに違った次元における真実性を与えることで、歴史の遠因と近因を明らかにする。

節目で挿入される政見演説にこめられた内容は人間性を深く掘り下げ、今も変わらぬ人間の本性をえぐって白日にさらけ出す。そこに二千数百年の時を超えて読者を引き込む魅力がある。他の歴史書にない本書の醍醐味でもある。
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