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2005年8月23日に日本でレビュー済み
 国際関係論の権威、J.Nyeのスタンダードな教科書「国際紛争」の冒頭に登場する、国際関係論の最古典といっていい書物。今回の岩波書店による復刻出版はきわめて歓迎すべきことである。
 さて、Nyeはもちろん外交に焦点をおいてこの本を読解しているわけだが、違った視点からの読みもありうるわけだし、それが古典というものの面白さであるとも思う。
 わたくしの疑問は、「どうしてスパルタ側はアテネの攻略に絞らなかったのだろう?」ということだった。それが不可能な理由は三つあった。ひとつは、専従軍隊がなかったこと。アテネの攻囲には数年間かかる。それだけの期間軍を貼り付けにしておくことは難しい。しかし、他の地域では越冬を含む軍事行動を行っていたわけだから、最大の理由ではありえまい。もう一つは同盟国との外交である。当然ながら攻囲には莫大な戦費がかかるから、それを負担させること、アテネ攻囲作戦そのものに同意を取り付けること、その他もろもろのコストがかかる。最後は兵站(logistics)の問題である。おそらく、この時代の最大の問題は、軍隊を組織すること自体よりも、その軍隊自体を「食わせる」コストの方がより大変だっただろうと思われる。アテネへの短期遠征の目的の一つが畑の破壊であったことを考えればそれも理解される。
 おそらく、この書物は現代でも多くの軍事学校で「教養」として読みつがれていると思われるが、ここで思い起こすことは、日本軍においてはこの兵站を軽視するという思想が最後まで抜けなかったことだ(別の大事な要素は技術革新--innovation--と共に諜報--intelligence--であることは言うまでもない)。かの「三国志」にしても、諸葛孔明が魏の攻略に最後まで失敗した理由がこの兵站の問題であったことがはっきり示してある。
 軍人のみならず、幅広い歴史的なパースペクティブを持つことは、すべての人間に資することであると思う。
 五つ星。
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