特集「〈恋愛〉の現在ー変わりゆく親密さのかたち」である。
対談の冒頭、及びラストの論考で、高橋幸氏は、19世紀欧米で確立した「恋愛(ロマンティック・ラブ)」は、男女二元論を基盤とするヘテロセクシズム(異性愛主義)」にすぎないのに、それが恋愛の一般社会概念になっている。学会では愛の研究は「恋愛」ではなく、「親密性」という概念でなされてきたが、今や上記の一般社会概念を刷新していくことが必要不可欠であり、そのためにも「恋愛」の再考が必要であるとされる。
概要
対談1編、論考18編、エッセイ2編からなっている。筆者は当然のことだが、圧倒的に女性が多い。
レビュー
一応、全部読ませていただいたが、私は漫画をほとんど読まないので、漫画の頻出する論考は、予習復習しないとよくわからない。現代テレビドラマも同様。また女性愛、男性愛、トランスジェンダーに特化した論考は勉強不足でレビューしずらい。またエッセイ二篇はあまり関心が惹かれなかった。そこで、対談と残りの論考についてレビューを書きたい。
☆これからの恋愛の社会学のために・・・高橋幸氏と永田夏来氏の総論的対談。高橋氏は80年代前半生まれ、永田氏は70年代前半生まれ。恋愛論の系譜→バブル期の恋愛の違和感のありか→バブル終焉後の恋愛→恋愛観の現在→恋愛の難しさと来て、結論が「恋愛の定義は難しい」で終わるのは、なあんだの感もあるが、そこまでの恋愛観史はなかなか面白かった。(対談のズレも面白い)。80年代バブル期にはフェミニズムによるロマンティックラブ批判が進展する一方、消費社会を背景とする恋愛の自由、恋愛至上主義も発展した。また、女性にとっての結婚を「生まれ変わること」とする観念もあった。バブル終焉後の90年代後半は女性の性的主体性が混迷し、アノミーの状態となった。ゼロ世代になると、「恋愛したらセックスする」が当然となり、結婚の手段ではなく、性を含めて自分の全てを相手に捧げ、自分のアイデンティティが確認されるという「人格を賭した恋愛」が登場する。2010年代には、ソフレ等の微量の恋愛感情を通した緩やかで多様な関係も存在する一方、人格的承認の場としての恋愛への期待は全然弱まっていない。そして、現代における恋愛の定義は難しい。私的採点70点。
☆ポリアモリーという性愛と文化・・「オープンに実施された、合意ある複数のパートナー関係」がポリアモリーであり、その実践上の問題点など。ポリアモリーは他者との濃密なつながりを探究する試みであると同時に、可傷性に充ちた領域への冒険である。大変真面目な論考で勉強になる。私的採点80点。
☆一九八〇年代、『non-no』の恋愛文化・・ファッション誌であった『non-no』にみる恋愛文化。1970年代誌面は恋愛と結婚と性の結び付いた幸福なロマンティックラブ。80年代になって、恋愛の価値が向上し、結婚を目的としない恋愛も誌面に登場する。恋愛は恋愛として自己目的化され、消費されるようになる。そして、恋愛の技術、女性がデート時の外見の性的魅力を高め、男性を引きつける技術について語られる。デート代の男性負担が多数派で、これは男性にとっては、性交渉の可能性の承認であった。東京ではデート(スポット)文化が興隆し、トレンディドラマに取り入れられ、東京は憧れの恋愛文化の地となった。面白い。私的採点80点
☆ロマンティックラブ・イデオロギーというゾンビ・・1990年代においてロマンティックラブ・イデオロギーは粉砕され、弱体化したはずなのに、未だにロマンティックマリッジ・イデオロギー(結婚には恋愛感情が必要である)として生き残り、多くの支持をえている。この結果、愛の名の下でのDV、過剰な不倫批判が正当化され、シングル、シェアハウス家族、ポリアモリー等の多様な関係の中にありうる幸せが見えにくくなっている。共感は別として、内容論理は興味深い。私的採点70点
☆「愛ー性ー結婚」の現在地・・ロマンティック・ラブ、ロマンティック・マリッジ批判で、結論も上の論考と似ているが、結論の論理がちょっとわかりにくい。「結婚を巡る規範は、恋愛や結婚のハードルをますます高めている。さらにその結果、人々から多様なパートナーシップの選択を奪うのみならず・・」。結婚のハードルが上がると、多様なパートナーシップの選択が困難になるのだろうか?? 20代では恋愛・性行動と結婚は一旦切り離されるが、20代の終わりになると、(出産を意識して)恋愛と結婚が再結合するという調査結果は面白い。私的採点70点
☆「逃げ恥」に観るポストフェミニズム・・菊池夏野氏の論考。当然大変面白かったが、私は『逃げ恥』というドラマに関心がなく、観る予定もないので、採点不能。
☆ゴースティング試論・・論者は男性のようだが、女性論者の激しい論考の多い中で、じっとおとなしくしている感。ゴースティングとはCMS(LINE等)によって繋がっていた恋愛関係(性的関係含む)を一方的に突然に断って、連絡不能にしてしまうこと。海外での先行研究の紹介と今後。穏やかな話でホッとする。私的採点80点。
☆「家父長制ボイコット」としての非恋愛・・これは激烈。韓国でのお話。2010年代に「脱恋愛」「非恋愛主義」が現れたが、2019年にはラディカルフェミニストを中心に4B(4非)の価値観が広まった。4B(4非)とは「(男性とは)、結婚しない、出産しない、恋愛しない、セックスしない」で、これを実践する「非婚コミュニティ」が次々と立ち上がっている。これは日本ではほとんどない家父長制に対する抵抗としての、(男性との)非恋愛・非婚・非セックス運動であり、女性同士の性愛については意見が分かれている。いずれにせよ、ここまで読んできた日本女性についての激しい論考が、子供っぽく見えてくるような激烈さである。私的採点80点。
☆映像メディアにおける同性愛表象の現在・・論者の著書『日本の〈メロドラマ〉映画』をまだ読んでいない。早く読まなくては。この論考については、『薔薇の葬列』以外の映画・ドラマを観ていないので採点不能。現在のレズビアン映画論よりも、戦前戦後のレズ映画を論じた『日本の〈レズ・百合・エス〉映画』を読みたい。
☆ジェンダー平等な恋愛に向けて・・最後に高橋幸氏が再登場し、大澤真幸氏の恋愛論批判を繰り広げる。「恋愛とは、相手との間に踏破しがたい「距離」を見出しつつも、その距離を埋めようとする強い志向性」であることは論理的だが、「「距離」は「性的差異」によって成り立っている」とする点が論理的不整合であるとし、「性交や結婚によって、距離が消えてしまい、恋愛が終わる」とする論理的根拠は不明または説明不十分とする。面白いが、批判で終わっている感がある。私的採点70点。
私的結論
〇コミックや現代テレビドラマに関心がないと分かりにくいが、分かる範囲については面白い特集だった。
〇ロマンティック・ラブ、ロマンティック・マリッジ批判が画一的な感もある。
〇全くの個人的なベスト3は、第一位「一九八〇年代、『non-no』の恋愛文化」、第二位「「家父長制ボイコット」としての非恋愛」、第三位「ゴースティング試論」、次点「ポリアモリーという性愛と文化」。
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現代思想2021年9月号 特集=〈恋愛〉の現在――変わりゆく親密さのかたち Kindle版
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「恋愛」はいま、どうなっているのか――恋愛研究の最前線
ライフコースの多様化を背景に、必ずしも結婚を中心としない視座から恋愛を捉える重要性が増しつつある。しかし同時にこの「恋愛」という概念自体もまた、根本的な問い直しを迫られているのではないだろうか。本特集ではポリアモリーやアセクシュアル/アロマンティックを含め、異性愛中心的な「恋愛」の規範が排除してきたさまざまなありように目を向けつつ、その「現在」を多角的に検討したい。
ライフコースの多様化を背景に、必ずしも結婚を中心としない視座から恋愛を捉える重要性が増しつつある。しかし同時にこの「恋愛」という概念自体もまた、根本的な問い直しを迫られているのではないだろうか。本特集ではポリアモリーやアセクシュアル/アロマンティックを含め、異性愛中心的な「恋愛」の規範が排除してきたさまざまなありように目を向けつつ、その「現在」を多角的に検討したい。
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2021/8/27
- ファイルサイズ2.9 MB
登録情報
- ASIN : B09DNWY8LG
- 出版社 : 青土社 (2021/8/27)
- 発売日 : 2021/8/27
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 2.9 MB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 475ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 60,655位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 60,149位Kindle本
- カスタマーレビュー:
著者について
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1983年宮城県生まれ。2008年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2014年同博士課程単位取得退学。現在、日本女子大学学術研究員、ならびに首都圏数カ所の大学の非常勤講師。専門は社会学理論、ジェンダー理論。主著『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(2020、晃洋書房)。ツイッターは@Schnee05
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上位レビュー、対象国: 日本
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- 2021年9月6日に日本でレビュー済みAmazonで購入
- 2021年9月14日に日本でレビュー済みAmazonで購入恋愛(や結婚という制度、性愛という行動)に関して単に数十年来の規範が壊れて多様化しているということに集約されない様々な議論が掲載されている。『現代思想』のことだからこのお題に関して知っておくべき事柄は網羅されているのだろうが、気になる点もいくつかある。
前半は恋愛についての概念の変遷を述べているが、概念の展開がそうだとして現実の行動は昔から(規範の外側にいる少数派としても)多様だったのではないかという疑問はあり。恋愛行動の歴史ではなく恋愛概念の歴史のようにみえる。虚構の“伝統的な家族の姿”などは論外として、行動の分析から概念が抽出されるのであり概念に従って行動しているのではないだろう? 例えば“純粋な親密性”は数百年前にはなかったのか。そう名付けられていなくても密かに存在していたのではないか。
中盤ではマッチングアプリなどに言及しつつ現在における実際の行動特性について述べられていて、世代的にズレにより実感しにくいことも見えたが、「恋愛とは何か?」という問いに直接応えるのは最後の論考のみかもしれない。それによると、恋愛とは到達不能な他者性を克服しようとする成就不能な営みであり、選べないもの、自分ではどうすることもできないもの、外からくるものらしい。それは解るが....それを神秘的に観たりロマン主義的に美化したりしてもあまり収穫はないであろう。
評者の考えでは、ここから先は.... 哲学的には前号の「自由意志」に接続する地平であったり、あるいは(フロイドが本能について述べたように)生物学的な基礎に拠ったり進化心理学的な説明がしっくりする領域に入ってくるのではなかろうか(それしかできないとも言える)。本号ではそのような領域への言及はなく文系の視点となっているのはもともとそういう路線なのだろうが、それが評者には「恋愛について」ではなく「恋愛という概念について」に見えてしまう理由ともなっている。
- 2021年11月17日に日本でレビュー済みAmazonで購入友人の薦めで購入し、気になるところを読みました。
少し呼吸がしやすくなった気がします。
表紙も青と緑を基調としていて素敵です。
手に取りやすくて助かりました。
- 2023年10月1日に日本でレビュー済み恋や愛は感情として否定しないが、かといって万人が等しく享楽を感受するものではなく、客観的にみて質も当然異なってくるだろう。
例えば、アイドルやモデル並みのルックスの異性と付き合う人間も居れば、彼らの偶像を拝借して如何わしい行為や感情を抱くしかない喪女喪男まで多種多様である。
そう考えたとき、恋愛感情を抱く対象と現実の恋愛対象は必ずしも一致しないのではないだろうか。
極端な話、不細工に恋愛感情を抱くのは殆どの場合有り得ない。
恋愛は素晴らしいものだ、等と宣うのは勝手だが"素晴らしい恋愛"は一般的ではないというのは肝に銘じておくべきである。
- 2021年12月20日に日本でレビュー済みAmazonで購入ズーとか近親相姦とか、もっと多彩なテーマを設定することができたのではないか。編集部のひねりがないね。
- 2021年8月31日に日本でレビュー済みAmazonで購入とてもタイムリーな特集で、面白い論考が多かった。冒頭の高橋幸と永田夏来の長い討議は、議論が進めば進むほど、二人がそれぞれ念頭においている「恋愛」の中味がズレていることが明らかになり、そのことだけでも学問的議論として有意義だ。フーコーは、実在するのは著しく多様な「性的現象sexualité」のみであり、それらのうちどれとどれをピックアップし、グルーピング化して引き受けるかによって、自己の「性sexe」のアイデンティティが決まると考えた。「恋愛」も似た事情があり、「恋愛」という語や概念に一対一対応する事象や実体は存在せず、実在する多様な「恋愛現象」の中からさまざまなグルーピングが行われ、それに応じて異なった「恋愛」概念が成立すると考えるべきではないか。評者は、高橋幸の論考「ジェンダー平等な恋愛に向けて」に一番大きな刺激を受けた。それは、「恋愛」を理論的にとことん突き詰めて考察し、大澤真幸の「恋愛の不可能性」というテーゼを、一面では受け継ぎながら、「他者性」を「自己内の非合理性」に読み換えることによって、大澤の「愛の理論」のジェンダーバイアス(=ヘテロという距離性)を克服しようとする。つまり、「恋愛」を、「踏破しえない距離をもつ他者性を踏破しようとする不可能な試み」から、「自分の内的非合理性に触れる経験」に読み換えようとする。評者自身は、大澤や九鬼周造などと同様に、恋愛には「他者性」という「アキレスと亀の悪無限性」があると考えるので、高橋の理論的試みは結局、「恋愛」を「自己愛」に還元してしまうように感じる。しかし、「ヘテロな性的差異という距離」を「恋愛」における「他者性との距離」とみなさないことが可能であるとすれば、それはまさに「恋愛」概念のコペルニクス的転換なので、高橋の試みは大いに追究する価値があるように感じる。






























