「移住も今の生活も、AWSがあったから実現できたと思っています。ゆくゆくは、人が集うような農場を持ちたいですね」

B-st.(ビースタ) 田名辺健人さん

 「息子が生まれてから、いつかは札幌へ帰りたいなと思っていたんです。でも仕事のことを考えると、なかなか決心がつかなかったですね」

 4年半前、田名辺さんは東京の印刷会社で、システムエンジニアとして印刷の受発注システムの開発を担っていた。彼は新しい技術の導入に熱心に取り組み、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドコンピューティングは日本に拠点ができる前から利用を始めていた。

 そんな田名辺さんに札幌への移住を決意させたのは、東日本大震災だった。

 「震災後に出社したら、ハードディスクは床に落ち、固定していたパソコンも大きく移動していました。停電で工場も動かない。食料も手に入りにくい。震災前まで当たり前と思っていたことが覆され、食べ物を生産できる農家は最強だなと思ったのです」

家庭菜園に植えた大根の苗

 田名辺さんは社内の防災対策を進める中で、世界各地の拠点にデータを保管できるAWSに社内のすべてのシステムを移設。それが完了すると同時に、インターネットが通じる場所であれば、自分がどこにいても仕事ができる環境が整ったことに気づいた。

 その頃、札幌に住む両親が体調を崩し、息子の小学校入学も翌年に控えていた。移住するなら今しかないと、退職を覚悟して札幌での在宅勤務を会社に相談すると、勤務に支障がないことを条件に承認され、田名辺さんは2011年11月に家族3人で札幌に移住した。

 札幌での在宅勤務に大きな支障はなかったが、2年半札幌で暮らすうちに、地元に貢献したい、農業にかかわりたいという気持ちが強まっていった。

 45歳までに就農すると自治体などから援助を受けやすいと聞き、悩んだ末に田名辺さんは東京の印刷会社を辞め、酪農系のITベンチャー勤務を経て、今年の春に独立。フリーランスとしてシステムエンジニアの仕事をしながら、札幌市主催の実践的な農業講座で学び、ITを農業に役立てる方法の模索を始めた。

自宅の仕事場

 「どんな作業かを体験すれば、効率化のポイントもわかってくるはずです。農業はマニュアル化しきれないし、完全に制御することはできないとは思いますが、AWSを利用して畑ごとのデータを集め、分析することで、使う人がカスタマイズできるようなシステムをつくろうと思っています」

 移住してまもなく丸4年。両親の体調も安定し、関東育ちの妻と息子も札幌での暮らしを楽しんでいるという。

 「息子を見ていると、自分が子どもの頃はそこまで学校が好きだったかなと思うぐらい楽しそうですよ。移住も今の生活も、AWSがあったから実現できたと思っています。ゆくゆくは、人が集うような農場を持ちたいと妻と話しているんですよ」