寓話です。猫たちの「絵」が、めちゃくちゃ可愛い絵本です。
文字と絵とが百パーセント、コラボしていて、忘れられない、心に残る絵本になっています。文句なく、傑作です。
中でも、村上春樹さんの訳と[訳注]が、超おもしろかったニャー!
例えば、「猫専用のドア」の[訳注](1)では、
物理学者ニュートンの話が出てきます。これだけで、この本を買ったカイがありました。
「だって、入り口と出口が必要だろう」(79頁)と答える、一方向的で超几帳面なニュートンさん。
その知られざる横顔を知ることができたからです。
万有の引き合う力に気が付いたニュートンさん。斥力(反発力)には気が付かなかったのかなあ。
こんな落語みたいなお話しまで<おまけ>の[訳注]で読めちゃう本なんて、めったにありません。
[訳注](2)では、
<boss around>という英語は、「オレが、オレが」という感じで訳せばいいと気付かせてくれます。
加えて、オレのまわりの「やーねえ」(80頁)という空気まで教えてくれる翻訳の村上先生。
[訳注](4)では、
猫を飼ったことのない読者には分かりにくい猫の行動を解説してくれます。
猫が初対面の相手の猫をなめてwashしてあげる行為は、
「自分ではなめにくい部分を、かわりになめてきれいにしてあげる」(81頁)ことなのだそうです。
確かに、猫もにんげんも、自分の「耳をぺろぺろとなめ」(33頁)ることはできませんものね。
[訳注](9)では、
「ジェーンの話すことばはただふたつ『ME』と『HATE!』です。日本語に直すと『みー』と『ひー!』となります」(86頁)と、村上さんは読者に注記して注意喚起しています。
<拙訳> 「ME」は、猫語でイエス。「HATE!」は、猫語では<大っ嫌い!>と訳します。
HATE!を「ひー!」という日本語に直すとは! <うへエーって!>なります。
村上さんは、どのような意味を込めて、ひー、という一音だけの日本語になったのでしょうか?
HATEは、複雑な感情が内にこもった、敵意を感じさせる、意味深い単語ではないでしょうか。
著者のル=グウィンは、HATEという一語に強い思い入れと<寓意>を込めているのでは?
ハテ? どういう日本語に直せば、その込められた寓意を読者に伝えられるでしょう。
「怖いときには<ひー!>って言うけれどね」(49頁)
<拙訳> <怖いときには “ヒエー!ッテ” 言うけれどね>
うーん、「叫び声」だけでは、HATE の寓意が日本語として伝わらないような気がします。
「ヘイト」スピーチに対する嫌悪感みたいなものが言葉になっていないような気がするんですけど。
猫とネズミの間の何千年にわたる歴史的、運命的、宿命的、ディズニー的な憎悪が根っこに横たわっているのでは。
そう簡単に解決しない、生物の食物連鎖的な、執拗な心理学的問題もあるのではないでしょうか。
「『もしネズミのやつがここに来たら』とちびのハリエットが言いました。『空中攻撃(こうげき)がどんなものか教えてやるわ!』」(77頁)
翼を持った猫たちは、空を飛ぶ自由と同時に、空からネズミのやつらをコウゲキできる「空中攻撃」という新たな「戦力」をも手に入れたわけです。
アレキサンダー大王の時代には無かった武器。
それによって、空飛び猫たちのネズミに対する HATE 感は解消し、過去の長く続いてきた恐怖と憎悪のトラウマは、メデタシメデタシとなって解消するのでしょうか。
「『そうよ』とジェーンも言いました。『彼は素晴らしい猫』
『もちろん』とアレキサンダーは答えました」(78頁)
おしまい。
<備考>
これで、このお話しはおしまいなんですけれど、うーん、そうかな?
村上さんは[あとがき]に書いています。
「むずかしいことは抜きにして、空飛び猫たちや、ふつうの猫たちの冒険を楽しんでください」(94頁)
「でもみんなにほめられても、『もちろん』とクールに返事をするところがなかなかアレキサンダーも渋いですね」(88頁)という村上さんの[訳注]を読んだ後、もう一度、うーん。
78頁の「挿し絵」を一時間(ひと時)じっと見て考え込み、楽しみました。
絵の中のアレキサンダーの表情は、みんなにおだてられて、どう見ても「鼻高々」のどやどやのドヤ顔です。
左横の空飛び猫の右手と顔の表情は、とても心配そうに見えますけどね。
<ねえねえ、ちょっとちょっと、やばくない。調子にノラないでよ、アレキサンダーったら。やーねえ>
著者のル=グウィンは、どんな気持ちで、アレキサンダーという「偉大なる」名前をふつうの猫につけたのでしょう。
もしかして、広大な領土を征服したアレキサンダー大王の教訓があったのかなあ。
「『犬だって恐がらないんだ。素晴らしいじゃないか!』
アレキサンダーはそう言われると鼻高々でした。『僕は素晴らしいアレキサンダーなんだ』と、自分でもそう思いました。そして、なにか素晴らしいことをしてやろうと考えました」(11頁)
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Wonderful Alexander and the Catwings ペーパーバック – イラスト付き, 2003/5/1
英語版
Ursula K. Le Guin
(著),
S. D. Schindler
(イラスト)
S. D. Schindler (イラスト) 著者の作品一覧、著者略歴や口コミなどをご覧いただけます この著者の 検索結果 を表示 |
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After being rescued by a flying cat, Alexander the cat decides to make good on a promise to do wonderful things.
- 対象読者年齢4 - 8歳
- 本の長さ47ページ
- 言語英語
- 対象2 - 3
- Lexile指数620L
- 寸法12.85 x 0.23 x 18.08 cm
- 出版社Scholastic Paperbacks
- 発売日2003/5/1
- ISBN-100439551919
- ISBN-13978-0439551915
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商品の説明
著者について
Ursula Le Guin writes both poetry and prose, and in various modes including children's books, YA books, fantasy, science fiction and fiction. She is the author of the bestselling and award winning CATWINGS series. Three of Le Guin's titles have been finalists for The American Book Award and the Pulitzer Prize, and among the many honors her writing has received are a National Book Award, five Hugo Awards, five Nebula Awards, and The Margaret A. Edwards Award. She lives in Oregon.
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登録情報
- 出版社 : Scholastic Paperbacks; First版 (2003/5/1)
- 発売日 : 2003/5/1
- 言語 : 英語
- ペーパーバック : 47ページ
- ISBN-10 : 0439551919
- ISBN-13 : 978-0439551915
- 対象読者年齢 : 4 - 8歳
- 寸法 : 12.85 x 0.23 x 18.08 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 77,996位洋書 (の売れ筋ランキングを見る洋書)
- - 217位Children's Cat Books
- - 1,338位Children's Fantasy & Magic Books
- - 1,537位Children's Action & Adventure Books
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
5つ星のうち4.8
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ベスト500レビュアー
Amazonで購入
2人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2018年2月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
前作で空飛び猫兄妹の仲間に加わった黒猫ジェーンと、翼のないアレキサンダーの物語です。
ジェーンは相変わらず、ミー(Me!)と、ヒィー(前作では嫌いだ!と訳されていましたが、今作は音で訳してあります。Hate!)しか口にすることが出来ませんが、高い木から降りられなくなったアレキサンダーを助けます。二語(というのか)しか話せないジェーンにアレキサンダーは言葉をまた取り戻すように励まします。
ひらたくいえば外傷からの回復の話で、考え込むと難しくなるのですが、猫たちは相変わらずかわいらしく、そして村上春樹の訳注も親切です。ル・グウィン、亡くなってしまいましたがたくさんの大切な物語を遺してくれて感謝しています。
ジェーンは相変わらず、ミー(Me!)と、ヒィー(前作では嫌いだ!と訳されていましたが、今作は音で訳してあります。Hate!)しか口にすることが出来ませんが、高い木から降りられなくなったアレキサンダーを助けます。二語(というのか)しか話せないジェーンにアレキサンダーは言葉をまた取り戻すように励まします。
ひらたくいえば外傷からの回復の話で、考え込むと難しくなるのですが、猫たちは相変わらずかわいらしく、そして村上春樹の訳注も親切です。ル・グウィン、亡くなってしまいましたがたくさんの大切な物語を遺してくれて感謝しています。
2008年10月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ル=グウィンの「空飛び猫」シリーズ第3弾です。
今回は、前卷で登場した黒猫のジェーンが、アレキサンダーと言う羽のない猫に出会います。
その出会いは高い木の上でした。
アレキサンダーは、犬に追われて高い木に登ったのですが、怖くて降りられません。
(私の家の猫も、高いところから降りられず、良く屋根の上でないています。)
それを助けたのがジェーンで、彼女はアレキサンダーを仲間たちのところへ連れて行き、結果として、優しい飼い主に紹介してやる事になります。
アレキサンダーは、そのお礼に過去のトラウマから喋れなくなっているジェーンの話を聞いてやり、ジェーンが喋れるようにしてやります。
そうしたことで、今回は二匹の「友情物語」です。
この物語の中では、いろいろ違っていても、全く差別なく対等な関係が作られているのが、ル=グウィンらしいかなと思います。
この「空飛び猫」ワールドも、段々と世界が広がってきました。これからが更に楽しみになりました。
今回は、前卷で登場した黒猫のジェーンが、アレキサンダーと言う羽のない猫に出会います。
その出会いは高い木の上でした。
アレキサンダーは、犬に追われて高い木に登ったのですが、怖くて降りられません。
(私の家の猫も、高いところから降りられず、良く屋根の上でないています。)
それを助けたのがジェーンで、彼女はアレキサンダーを仲間たちのところへ連れて行き、結果として、優しい飼い主に紹介してやる事になります。
アレキサンダーは、そのお礼に過去のトラウマから喋れなくなっているジェーンの話を聞いてやり、ジェーンが喋れるようにしてやります。
そうしたことで、今回は二匹の「友情物語」です。
この物語の中では、いろいろ違っていても、全く差別なく対等な関係が作られているのが、ル=グウィンらしいかなと思います。
この「空飛び猫」ワールドも、段々と世界が広がってきました。これからが更に楽しみになりました。
2002年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
やんちゃな子ねこ・アレキサンダーと
羽のはえたねこ達との交流の物語です。
前半のアレキサンダーの冒険途中の独り言が
なんだかとても愛らしいです。
子ねこ版、はじめてのお散歩という感じでしょうか。
出版社のレビューで、本の内容がほぼ全て明らかになっていて
読む楽しみを激減させているのが残念ですが
内容を知っていても、絵を見るだけでもお勧めの1冊です。
絵と字が半々か、絵が少し多い感じの本で
総語数3500くらいです。
羽のはえたねこ達との交流の物語です。
前半のアレキサンダーの冒険途中の独り言が
なんだかとても愛らしいです。
子ねこ版、はじめてのお散歩という感じでしょうか。
出版社のレビューで、本の内容がほぼ全て明らかになっていて
読む楽しみを激減させているのが残念ですが
内容を知っていても、絵を見るだけでもお勧めの1冊です。
絵と字が半々か、絵が少し多い感じの本で
総語数3500くらいです。
他の国からのトップレビュー

Richard Emery
5つ星のうち5.0
Chapter book for younger children
2019年9月6日に英国でレビュー済みAmazonで購入
Brilliant story with chapters that captured my five year olds imagination. Lots of detailed illustrations too.

Melissa
5つ星のうち5.0
Loved it as a kid and again as an adult
2019年8月19日にカナダでレビュー済みAmazonで購入
Bought this childhood fav for my daughter!

Amy - homeschooling mom
5つ星のうち4.0
Part of a great series
2013年7月9日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
3rd in the Catwings series. My daughter (age 9) says she liked this one pretty good but the fact that Alexander decided to run away was stressful because she doesn't like it when cats get lost. She also feels that the story would have been better if the author would have taken the time to write more about it instead of making the book be so short.
I really enjoyed reading her this series. I agree that I would have loved the series to be longer because we had fun with it - but I thought the stories and characters were still developed enough to be fun!
I really enjoyed reading her this series. I agree that I would have loved the series to be longer because we had fun with it - but I thought the stories and characters were still developed enough to be fun!

garthsky
5つ星のうち5.0
fantastic: grammatical & wonderfully written
2021年8月23日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
My daughter (1st grade) loooves these accessible chapter books with lovely illustrations! I love the well written and creative the stories. After sifting through a lot of mediocre children’s sets, we are thrilled to have found these timeless classics. Pleasing for children and adults alike.