作者本人が描かない人気漫画のスピンオフは今や珍しくないが、しかし、高橋ヒロシ漫画のスピンオフは本当に多い。義に熱い高橋が弟子をデビューさせまくってあげているのか、漫画以外のなんかの事業に失敗して生活に困っているのか、理由はわからないが、量産できる理屈ならわかる。高橋漫画はキャラクターが居ればいいからだ。これは本人が漫画は魅力のあるキャラクターがいれば成立すると言っていた気がする。彼の漫画はストーリーは凄く単純で、「強く見える男の心の奥には弱さがある、そこから逃げるために必要以上に強く振る舞う、それが喧嘩でぶちのめされて強さが解体されることで心の中の弱さに向き合える、そしてそれを受け入れて前に進める」…ほぼこれで説明できる。クローズからワーストに至るまで、ストーリー的にはこれの繰り返しである。だからキャラを立ててこのストーリーをなぞれば、いくらでもスピンオフを作れる。予想通り、ゼットンの教師漫画まで始まったが、読む必要もあるまい。どうせ、不良が「他の大人と違ってゼットン先生は俺達の気持ちを解ってくれる」って話にしかならんだろう。教師の彼が生徒をぶん殴って彼らを弱さに向き合わせるだけの作品に違いない。
…で、同じことをやっているはずが何故、クローズに比べてワーストの評価が低いのかと言うと、色々と理由はあるが、やはり一番は肝心のキャラの魅力が無くなったからだろう。解り易い例として、武装戦線の劣化を説明しよう。ワーストの何処かの話の扉ページで、7代目武装メンバーの名前と顔を紹介しているのだが、作中に登場していないメンバーは名前だけで顔はシルエットになっていた。後で出てくるんだろうなあ、と思ってたら出ずじまいだった。少数精鋭が魅力のチームだった筈だが、顔もないモブが居るのだ。「数だけ集める萬待と違って銭屋は~」と言っていた兄貴をどう思ってるのだ村田将五は。これは内容にも反映されており、武装が萬侍と揉めたときは、身を隠せ、萬侍がそこにくれば鈴蘭や鳳仙らと揉める、そして戸亜留市対萬侍に発展させよう…合理的には正しい判断だろうが、数人で銭屋との全面戦争も辞さないと啖呵をきってみせた6代目に比べるとこの戦略をドヤ顔で立てる藤代拓海はどうもダサいような…。鉄生が草葉の陰で泣いてるぞ。
そして誰がなんと言おうとそんなワーストで高橋が最も上手く動かせなかったのが九里虎である。作中に彼の喧嘩の見せ場などあっただろうか。数少ない見せ場のはずの花とのタイマンでは不意打ちして「これが喧嘩バイ」…卑怯な喧嘩があるのはブッチャーが教えたんだからもういいじゃん。それで花が立ち上がってきたら「相手を尊敬するのは初めてバイ」…不意打ちかました人が言う台詞じゃないと思うんスけど笑。使い方間違ってますよ。結局、主役とは別に居る”最強”を上手く動かせなかったもんで、キレて場を滅茶苦茶にするギャグ要員が主でしか無かった。
もう一つは女好きって設定が全然活きない。これは当然で、何故なら高橋は女を描かないから。何時も電話で喋ってるだけ。漆黒の蠍と揉めたときも彼女が殴られたと怒るんだけど、作中に登場しない人が殴られたからと怒られてもなあ…っていう笑。ワースト新装版表紙で九里虎が水着の女を抱いているのだが、この女が案の定、顔が見切れていて、挙げ句に棒立ちで抱えられているので、マネキンに見える笑。此処まで来ると、居もしない女と繋がってない電話で会話してるアレな人に見えなくもない。
この漫画はその九里虎を主人公にした話である。前述のように描写がろくになくても原作の人気キャラなのだから上で説明した高橋的ストーリーをただやるだけでもヒットはしただろう。でも、この作者は九里虎というキャラをきちんと掘り下げようと頑張っている。原作には出てこない女を登場させるだけでだいぶ印象が変わる。漆黒の蠍のときと同じく、女の為に喧嘩をするという、彼の行動に格段の説得力が生まれている。幼い少女や老婆でもレディ扱いするなんてのはキザったらしいが、だからこそモテるんだろうなと思えるし、原作でチャラいノリで電話しているだけなのに比べても、彼の女好きというのが、愛すべき個性として立ってくる。この巻で髪を原作初期の金髪に染めるが、そこにも最強であることによって”孤高”の存在になっていくという、九里虎の影の部分、とでもいうべきものを垣間見せてくれる。これは中学時代の坊屋春道のエピソードのオマージュのようでもある。原作で最初に登場した時に「喧嘩云々はもう中学で終わりでいい」と言うが、高校時代に比べても若干やんちゃで義に熱い姿は、原作で単なる超人のようになってしまったのに比べても、等身大の十代の少年らしくていい。他の原作ファンがどう思うかは知らないが、自分には原作者よりこのスピンオフの作者の方が100倍九里虎を魅力的に描けていると思う。
ストーリー的にはここから大規模な抗争が勃発するであろうところである。多分、このスピンオフ作はこの抗争を描ききるまでで完結するのだろう。この巻までで役者は揃った、という感じがする。原作の健全なヤンキー世界から一歩踏み越えてダーティな面を出しているのはこの作者の作家性のようでもあろうが、原作の世界観をそのままなぞられるよりも良いと思う。クローズに比べてワーストが評価を落としたのはドラマ性の欠如もあっただろう。花が番長に成るのも適当に終わり、最後はジャンケンでビスコとのタイマンも省略だった。この漫画には原作者の高橋自身が失ってしまった、かつて彼の漫画にあったドラマ性があると思う。
この漫画は原作に比べると格段に画力が低い。6巻まで来ても中々上達の兆しは見えない。しかし、だからどうだというのだろう。別に絵が上手いから高橋ヒロシの漫画を好きなったわけではないのだ。自分のようにヤンキーと縁の少ない人生を送っていたような人間でも、心を動かされるような登場人物たちが居て、彼らのドラマがあったからだ。人気キャラに依存せずに熱意を込めて描かれた本作には、最早本人ですら失ってしまった本来の高橋ヒロシの漫画が持っていた熱さがある。老いた師匠がかつてのような作品を描けなくなっても、弟子がその志を継いで描いているのなら、それは素晴らしいことだ。他のスピンオフには残念ながらそれを感じないが、本作にはそれがある。師匠の威を借りた作品ではない。作者は自分の描いている漫画に胸を張っていい。
WORST外伝 グリコ 6 (6) (少年チャンピオン・コミックスエクストラ) (日本語) コミック – 2020/6/8
髙橋ヒロシ
(著)
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11巻中6巻: WORST外伝 グリコ
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本の長さ188ページ
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言語日本語
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出版社秋田書店
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発売日2020/6/8
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ISBN-104253254365
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ISBN-13978-4253254366
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