今さらになってアニメ版を観て完全にハマり、小説版も買いました。
とてもおもしろい作品だと思います。
自分はもともと、いわゆる異世界転生ものが好きではなかったのですが、リゼロに限ってはストーリーの魅力もさることながら、いわゆる〈ライトノベル〉の範囲を飛び出しているように感じました。
大げさかもしれませんが、異世界転生ものというより、ひとつの哲学的な小説のようにさえ思います。
(以下ネタバレ含みます)
そう感じた理由を挙げます。
まず、個人的に興味深かったのは、物語の中に何度もくり返し現れる『家族』と『贈与』と『共通の過去の否定』の明確なモチーフの存在です。
具体的に説明すると、『共通の過去の否定』は以下のようなものです。
主人公のスバルは物語開始早々、異世界に立っていました。(書籍ではそれこそいきなり、アニメでは深夜のコンビニを出た直後)
ここで分かることは、当然ですが、スバルはそもそもこちらの世界から異世界へと召喚されたので、彼は異世界側の誰とも共通の過去を持ちません。
(この『過去』は『歴史』とイコール)
ここで重要なのは、リゼロを読めばすぐ分かるように、じつはスバルが異世界側の歴史(=過去)を知らなかったからこそ、エミリアのその特徴的な容姿からも不吉な魔女サテラを連想せず(というかそもそも出来ず)、
故に、スバルは他の人々のようにエミリアを差別しなかった。
その為、初めての死に戻り(タイムリープ)をする前に、エミリアと少し懇意な関係になる。
この後、スバルがエルザに殺害されて初めての死に戻りをすることでリゼロの物語は起動します。
以上がこの作品で『共通の過去(=歴史)の否定』のモチーフの初登場となりますが、以降も、たとえば第2章ラストにおいてスバル自身がレムに対してはっきり、こう断言します。
「大切なのは過去じゃなくて未来だ」と。
つまり第2章のラストシーンで『共通の過去の否定』が再び現れ、なおかつ、そこにさらに『共に見る未来』が追加される。
しかもこれは次の第3章に於いて、挫けそうになるスバルに対してレムの口からまたしても反復する。
「未来の話をする時は、笑ってなくちゃダメなんですよ」
というあのスバルを再起させる名台詞になります。
これらのエピソードはまとめると、以下のような意味になると思われます。つまり、
レムとスバル、またエミリアとスバルのように『共通の過去(=歴史)』を互いに持っていなくても、今ここから、まさしくゼロから『共通の歴史』を作ることが出来る。
ここではしかも、『未来』とセットで、もう一つの重要なモチーフである『家族』が現れます。
第3章でレムと共に逃げ出すことで現実逃避を行おうとしたスバルの台詞に対し、レムは〈ありえるかもしれない2人の未来〉として、2人が結婚して子供をもうけ家族を作った未来を具体的に語る。
このようにして『共通の過去(=歴史)の否定』/『共通の未来』と『家族』というモチーフがひとつの繋がりを持ってはっきりと立ち現れる。
(むしろ家族というモチーフを中心とするように、他のモチーフがすべてそこへ向かっているようにさえ見える)
これは恐らく作者の長月先生がリゼロで描こうとしているテーマなのだとわたしは思います。
故にというべきか、じつは1巻の冒頭の場面からすでに『エミリアとスバルと迷子の少女』を『家族』に見立てたシーンがイラスト付きで登場している。
(スバル=父、エミリア=母、少女=娘)
個人的な解釈ですが、もしリゼロを〈RPG〉の世界観で組み立てられた作品とするなら、そこにはきっと〈トゥルーエンド〉があるはずなので、
おそらく物語のラストでスバルはヒロインの誰か(冒頭の繰り返しだとすると当然エミリア)と結婚し、子供をもうけ、『家族』という〈ゼロから作る歴史〉を手に入れて終わるのではないかと思います。
(ちなみに白鯨退治の話ではあの緊張感の中、何故かフランダースの犬のOPがアラームとして流れますが、その歌詞は『忘れないよ/この道を/パトラッシュと歩いた』なので、明らかにスバルが自分の仲間と過ごし、共に歩んだかけがえのない共通の時間のことを指していると取れる)
ここまでをまとめるなら、
たとえ『共通の過去/歴史』などなくとも、むしろないからこそ、スバルとエミリアのように出会え、
大切なのは『過去ではなく未来』だからこそ、レムの台詞(本当はスバルがレムに言った台詞)が改めてスバルに気づかせたように共に『ゼロ』から『未来/歴史』を作ることができ、
それらは恐らく『家族』という形で結実する。
これはたんなるリゼロのストーリーというより、人間が他者と理解し合える、共通点がなくても仲間になれる可能性を示唆しているように思います。
(自分の深読みかもしれませんが・・・)
あと最後に、はじめに挙げた3つ目のモチーフである『贈与』ですが、
これははじめて異世界に紹介されたスバル(つまり死に戻りする前のスバル)が、フェルトに盗まれた徽章を探していた流れで出てきます。
スバルは自分も急いでいるはずのエミリアに助けてもらう。その感謝から彼女を助けてあげたいと思うようになるという、あのシーンがそれです。
ここで、1人の人類学者を出すのは唐突かもしれませんが、マルセル・モースというフランスの人類学者の有名な理論がこのスバルの心理(とリゼロ)を上手く説明してくれます。
『贈与』とは、じつはそもそもモースの使う人類学の用語なのですが、この理論はようするに「贈り物をされた人は、その分を返したくなる」というもの。
この発想がおもしろいのは、この理論が提唱された20世紀には未だ主流だったカール・マルクス(あのマルクス主義のマルクス)の『交換』という経済理論を打ち破る要素を持っていたことです。
マルクスは経済活動を、まずシンプルに同じ労働時間で作られた1個のものと、別の1個のものを互いに交換するものだとしますが(いわゆる等価交換。これが守られない資本主義の労働をマルクスは「搾取」だと非難します)、
モースの『贈与論』の場合は、1対1を前提とする「交換」とは違い、
他人に何かを貰った(贈与された)人は必ずしも何かを呉れたその人に対してだけではなく、まったく無関係な人に対して『贈与』を行うというもの。
つまり、Aさんに何かを貰った(親切にされた)けど、無関係のDさんに親切にしたくなった、ということが有り得るというのがモースの理論。
(しかもマルクス経済学のように1対1の等価交換である必要はない)
具体的なイメージだと、昔ヒットした映画『ペイ・フォワード/pay it forward』(日本語でいうところの恩送り)でいいと思います。
この『贈与』の感情が、エミリアに助けてもらったことでスバルに起こり、だから何度もエミリアを助けようとする。
(マルクス流の1対1だとするならあまりに多い返礼!)
ちなみに1巻の何度目かの死に戻りの時、果物屋のオジサン(カドモン)が、さっきスバルと同じ無一文の子(エミリア)に迷子の娘を助けてもらったからといって、タダで質問に答えてくれます。
(まさしくエミリア→娘/カドモン→スバルという目に見える贈与の流れ!)
そしてこの『贈与』のモチーフは、白鯨を撃破したあと、アニメの第1期ではラストシーンで、はっきりとスバルがエミリアに告げています。
「有り余った幸せを他人に分けよう」
という意味の、あの台詞です。
つまり、リゼロの物語はエミリアがスバルを救ったことがきっかけで(もしかしたらそれもパックに助けられた彼女の心に芽生えた『贈与』の感情)、やがてスバルの信念にまでなる「エミリアを守る」という意思が生まれた。
そして『共通の過去の否定』『未来』『家族』のモチーフが重なり、それらは何度も登場人物の台詞やエピソードの中に現れ、物語が動いてゆく。
こう見ると、リゼロをただの異世界転生ものと呼ぶのは、もはや的外れのように思えますね。
あと、その他に思ったことを挙げると、
これは何となくなのですが、もしかしたらスバルは初めて異世界に召喚されたと思っているだけで、本当はすでに死に戻りだったのかも。
というのも、サテラはスバルを知っているようなので、じつは物語スタート以前にスバルはあの異世界に召喚されていて、何かしらの理由で彼は死に、その未来を変えるために(あるいは利用するために)サテラがタイムリープさせ、
さながらゲームプレイヤーのように、スバルを特定のルートに進ませているのかも。
あとクルシュ様という美女がいますが、クルシュはペルシャ帝国初代皇帝のキュロスのことなので、
そのクルシュ(キュロス)の竜退治を思わせる発言は、キュロスによる新バビロニアに捕まっていたユダヤ人の解放をどこか想起させます。
(キリスト教では竜=悪。さらにメルヴィルの小説『白鯨』で白鯨はリヴァイアサン=竜、あるいは悪魔的創造神デミウルゴス。キュロスはバビロン捕囚のユダヤ人を解放し、善政を行ったので理想の王とされる)
クルシュに理想の王のイメージを重ねているなら、やっぱり最後に王様になるのはエミリアじゃなくてクルシュ様かも。
じっさいはどうなのでしょう。気になりますね。
ところで最後になってしまいましたがリゼロの2期の制作が少し前に発表されました。
2期ではやっぱりレムの出番はあれでしょうけど、でも、エミリア、クルシュ、フェルト、ラム、そして動くエキドナを観れるので今からもう楽しみですね。
自分も、リゼロのある未来を笑って迎えたいと思います。
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長月 達平
(著)
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言語日本語
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出版社KADOKAWA
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発売日2014/4/24
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ファイルサイズ10986 KB
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登録情報
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2021年2月14日に日本でレビュー済み
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有名なラノベが240円だったので暇つぶしに読んでみた。簡単に言うとループもの。異世界に転生した主人公、スバルが死ぬと果物屋に居た時間軸まで戻るというのを何度も繰り返す。ループものについては特に詳しくもないのだがゲームでいうとゼルダのムジュラの仮面なんかと同じ。何度も同じ時間を繰り返してはうまくいくようにやり直す、何度目かのループのあとでは前回の体験を頼りに先回りして行動できたり、みたいな。
このストーリー的な構造の説明がダラケているのでかったるい。読んでるこっちには2度めの時点で世界がループしてるのが解るのにスバルが気付くのが3度目が終わってから。1巻の半分も過ぎて。劇中で「これが異世界召喚か」「お約束の中世風か」「チートはないのか」みたいな、既存のカルチャーありきで語るのだから、早い段階で「これはループものだ」と気付けないのは不自然だろう。
「お約束のヒロインは?」というメタ的突っ込みを入れながらその後でお約束どおりにヒロインが出てくる構成も上手くない。メタ突っ込みは所謂、相対化なのでやった時点でお約束を入れてはならんだろう。まあ、可愛いヒロインが出てこなけりゃ誰も読まないだろうけど笑。…ところで本作をみてない自分でも知ってるレムって娘が出てこないんだけど、あの娘が正ヒロインなんでしょ?正ヒロインが1巻から出てこないって珍しいね。
ストーリーがスバル視点で進むのにテキストの人称が第三者目線になってるのも上手くない。スバルの自分語りにすりゃいいだろうし、彼視点でどう立ち回るかというループものなのでそうするのが普通だが、しないのは第三者視点にしないと情景描写を入れられない、作者の技術不足なのだろう。「安物のグレーのジャージがやけに似合っている」…それは誰がスバルをみて言ってるの?
不登校児が家で筋トレしてたので強い、という設定にも乾いた笑いが漏れるがこれくらいは許容範囲だろう。
死んでもやり直しがきくループもの、という設定を有効に活用してその法則内でいかに効率よくトラブルを解決できるように段取り良くコトを運んでいくか、というシナリオの作りと、1巻では見られない、死についての制約を設けた上でハナシを進めてくれれば面白い作品にはなりそう。でもこの1巻だけだとそんな面白くはない。ヒットしとるので今後に期待といったところ。読むかわからんけど。
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