本書は黒野忍をはじめとした黒野流(とメンバーが重なる混沌の騎士団)という真言立川流を標榜する団体の幹部たちによって書かれた短編集である。
読み物として読みやすいのは高評価である。
ただし、全体として黄金の夜明け教団系の魔術やクロウリーの魔術に対する恨み節が根底に流れている部分が鼻につくと言えば鼻につくだろう。彼/彼女らは一貫して黄金の夜明け教団系魔術団体を洗脳調教の魔術とカルト扱いして批判し続けているのだが、魔術は一定の宗教観・世界観の元に成り立つ以上、それらを受け入れて自分の思想・信仰としていくのはある種当然のことなのだ。それは混沌の騎士団・黒野忍らのも同じことで、黒野流や混沌の騎士団に所属しても一定の宗教観・世界観を自らのものとして信じなくてはならない。そのため、よその団体や魔術なんて興味のない一般人の視点で見れば混沌の騎士団だって洗脳調教をしているように見えることになる。要するに、団体それぞれ信じるものが違うのだから、それを洗脳調教と言って批判すると、その批判がそっくりそのまま自分に返ってくるということだ。大体一般人は魔術なんて興味持たないのだから、このような独善的態度はみっともないというほかない。
さて、本書には有名なアブラメリン魔術を日本人向けに改良し実践した話が出てくる。具体的には自らの(宗教的な意味での)罪を懺悔し、大般若理趣分を唱え続けるということをするのだが、これには首をかしげざるを得ない。本来、密教には密教の儀軌があり、西洋には西洋の儀軌があるのであるから、それを素人が改編してしまってよいものであろうか、ということである。このような宗教のちゃんぽんは新興宗教やスピリチュアル系の十八番である。
また、魔術師を目指すなら適切な魔術団体に加盟するのが一番であること、もし団体に所属せずに魔術師を目指すならイエズス会の『霊操』(岩波文庫)を参考に訓練するのがよく、誤った訓練をし続けることの無意味さと危険性を説く記事もある。それをお前らが言う資格があるのか?というのはさておき、正論だと思った。
私は紙面版を所有しているが約3000円だったため、3000円の値打ちはないと思っているが、kindle版は1000円なので、このぐらいの金額なら読んでもよいかもしれない。
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