自己破産、大失恋。シンガーとして大成功したトニブラクストンが、様々な困難を乗り越え、いや、抱いたまま、絞り出すように紡いだ、傑作の3rdアルバムである。
トニブラクストン もこのアルバムの制作がいかに大変だったかについてのコメントも、後のベストアルバムの日本版ライナーノーツでもちらっと伺うことができる。
タイトルから伺えるように基本的には夏のアルバムである。が、個人的にはこのアルバムは熱帯夜だけではなく、曇った昼間でも、肌寒い雨の朝でも、どんなシチュエーションにも合うバラエティ豊かな楽曲が揃っていると思う。
トニの低く深い声が、アップテンポなビートやキャッチーなコーラスと絶妙に絡み合う1.He wasn’t man enough
ミステリアスかつどこか熱気を帯びた独特なメロディ、ホットでクールなタイトルチューン2.Heat
前作の世界的特大ヒット作 Unbreak My Heartを髣髴とさせるスパニッシュフレイヴァー溢れる情熱的な、3. Spanish Guitar
そして一聴すると地味かもしれないが、トニの痛みに満ちた泣きのアルトヴォイスの魅力が最大限に発揮されている、実に味わい深い名曲、4.Just Be A Man About It 個人的にこの曲は本アルバムのハイライトである。怒りや悲しみなど感情をあらわにするMVもファン必見。
ギミさん、ギミさん♪と繰り返されるフックが癖になる、レフトアイをフィーチャーした軽快でヒップなノリのナンバー、5.Gimme Some 今までなかったアプローチで攻めている
再びしっとりしたダイアンウォーレン作のバラード、6.I'm Still Breathin
フランスの映画音楽のような、軽やかでありながらも哀しく、綺麗なメロディを自然体で歌う 7. Fairy Tale
トニの言葉にならない吐息や囁きに乗せて、ミステリアスなトラックがひたすらループされるセクシーなインタールード、8. The Art Of Love を経て
個人的に本作のアルバムの第2のハイライトといっていい隠れた名曲、9. Speaking In Tongues 作詞作曲のクレジットはトニブラクストン 1人。派手さはないが、その抑制された美しさに、思わずため息が溢れる。トニブラクストン の作曲家としての才能を見せつけられる逸品。
一転して、歌詞カードが追いつかないほどの早口唱法でまくし立てる攻めのトラック、10. Maybe
またまた一転して、大人の女性の余裕を感じさせるような、力を抜いたリラックスムード漂う一曲、11. You've Been Wrong
そしてアルバムの最後を飾るのは、ひたすら迫り来るマイナー調の響きが哀しい、12. Never Just For A Ring 下手すると島倉千代子の「人生いろいろ」か?と思うほどの演歌的な情念すら感じられる。
個人的には最後の曲が、もう少し希望のある楽曲で締められていた方が良かったような気がするが、この時のトニの精神状況上、このようなドロッとした哀しみで締めくくるより他がなかったのだろう。
若干の後味の悪さのようなものは残るものの、そこも含めて、痛みに満ちたトニの歌声が沁みる傑作アルバムである。
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