本作はキメラ編でパワーインフレが起こっている。一般的なインフレバトルの解決は「相手より強くなる」であるが本作は違った。要約すると「最強の念能力者より、進化の果てに生まれた最強生物より、人間の悪意が生み出した殺戮兵器の方が威力が上回る」である(ネテロが念が通じなかった場合の奥の手としてその兵器を用意していたという点)。その兵器たる「薔薇」が世界中で花を咲かせ多くの被害を生んでいた、とあった。つまり、本作の世界に於いては国家間の武力衝突に比べれば念バトルなど些事に過ぎない、ということを描いたのがキメラ編の終盤だったのだ。だったらもうその悪意とはなんぞや、に踏み込むしかない。それがいつかジャイロを通じて描かれるかも知れないとしても、そうなった後で、念能力者の小競り合いなんぞ描いたところで面白くなるわけがない。しかもメルエムはおろかピトーでも秒殺出来そうな雑魚念能力者連中がドヤ顔してるもんで鼻白む事この上ない。ドラゴンボールでフリーザ戦の後で人間同士の銃撃戦描いて盛り上がるか?
作者はこのシリーズでキャプ翼のユース編の登場人物を超えることを目標にしていると語っていたが、キャプ翼は必要に応じて人物を配してるだけだが(サッカーの一試合を描くだけで最低22人は登場するのだ)、そもそも「登場人物が多いこと」なんて面白くもなんともないんだから手段が目的化してるというか本末転倒というか。しかも明らかに作者がこの超群像劇を手に負えて無くて一人ひとりの見せ場もろくに作れないからただでさえどうでもいいモブ連中が全くキャラとして立たないし、膨大な登場人物の絡みを少ない紙面で処理するためなのか今の本作は台詞や描写が全て状況や設定の説明に終始していてドラマとしての面白みがまるでない。それにプロットをただ漫画に描き起こしてるだけで「面白くしよう」という意識もないのかストーリーをテキストに頼りすぎているため文章が異様に冗長で、まるで挿絵の比率が増したラノベみたいな状態だ。
暗黒大陸編への期待があったのはジン対パリストン、五大厄災などを通じてパワーインフレの先のさらなる高度なバトルが描かれるという可能性を見たこと、此処へ来て過去最大の大風呂敷を広げてきたことでこれまで見たことのないような壮大なストーリーが描かれるのではないかということ、付け加えれば厄災のひとつ、アイがナニカの同種でこれの正体を描くことで「先を犠牲にして進化したにもかかわらずキルアの命令ならノーリスクで聞くナニカによって復活したゴン」という本作最大の御都合主義の補完が成されるのではないか(念が見えなくなった以外にも代償があるのか等)ということもあった。それらの期待に比べればカキン国の王位継承もヒソカ対旅団も訴求力に乏しすぎる。ぽっと出の王族なんて興味も持てないからクラピカの緋の眼奪還に関わるツェリード以外なんてさっさと退場させても構わないし、かつてなら黄金カードだったはずのヒソカ対クロロからしてあの有様だったのに旅団になんぞ今更期待することなんて何もない。
この群像劇の果てに此方の想像を遥かに上回るような展開があるのかもしれないが少なくともこの巻を読んでも全く面白くない。高度だったり複雑だったりするのではなくただ構成が下手だからわかりにくいストーリー、やたら多数いる魅力に乏しい登場人物達、インフレの後で既に旬を過ぎたキャラ同士の因縁、念バトルよりも強大な力の衝突があると見せられてからの雑魚念能力者の小競り合い、数冊前まで名前も出てなかった国の王位継承戦、その全てにまったく心が動かない。
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